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中国・改正国防動員法と日本企業 ― 与信管理・安全保障貿易管理の視点から

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中国・改正国防動員法と日本企業:発動されたら取引のどこが止まるか(中村格付研究所)

はじめに

2026年10月1日、中国の改正国防動員法が施行されました。8月28日に全国人民代表大会常務委員会で可決されたもので、2010年の制定以来、初めての大幅な改正です。

この法律は、中国に拠点を持つ企業だけの問題ではありません。中国の企業から仕入れている、中国の企業に販売している。それだけで、取引先が「動員される側」になり得ます。

一方で、SNSなどでは「中国人が全員スパイになる」といった極端な解説も見かけます。本稿では、法律が実際に何を定めているかを確認したうえで、与信管理と安全保障貿易管理の実務で何を見直すべきかを整理します。


国防動員法とは

国防動員法は、有事の際に国家が人・モノ・資金・情報を動員できるようにする法律です。2010年7月に施行されました。

骨格は次の3点です。

  • 発動: 国家の主権・統一・領土の保全・安全が脅かされたとき、全人代常務委員会が全国総動員または局部動員を決定し、国家主席が動員令を発布します。直接の脅威に即応が必要な場合は、国務院と中央軍事委員会が必要な措置を先に取り、全人代常務委員会に報告できます
  • 対象: 中国国内の組織と公民です。条文に「外資系企業」という言葉はありませんが、資本構成を理由に除外する規定もありません。中国にある現地法人も「組織」として扱われると考えておくのが実務上安全です
  • 民間資源の取り上げ: 動員の発動後、国は民間の施設・設備・輸送手段などを「征用」でき、使用後に返還し、損失を補償します

この法律は単独で動くものではありません。国家安全法(2015年)、国家情報法(2017年)、データ安全法(2021年)などと組み合わされて、「平時から国家に協力する義務」の体系をなしています。

ただし、動員が実施されるのは、あくまで「発動されたとき」です。平時に求められるのは準備であって、中国の企業や個人が常に軍の指揮下にあるわけではありません。過度に恐れるのではなく、「発動されたら、自社の取引のどこが止まるか」を把握しておくことが実務の出発点です。


2026年改正で何が変わったか

一言でいえば、国防動員に備える対象が、軍需品や物資だけでなく、データ、先端技術、サプライチェーンへと広がり、平時の準備の中身が条文で具体的になりました。改正法は動員の目的を、「平時から戦時への迅速な移行」と「経済・社会の力を国防力に転換すること」と明記しています(第2条)。

2010年法と2026年改正法の比較:変わったのは業種ではなく平時の準備の中身
論点2010年法2026年改正法
発動の条件主権・統一・領土の保全・安全への脅威(第8条)これに「発展の利益」への脅威が加わった(第13条)
データ明文の規定なし国防動員に密接に関わるデータを法に基づき収集・利用する「データサービス保障制度」を新設(第7条)
先端技術軍需品の生産転換での軍民両用技術の活用(第40条)先進技術の活用と、新興領域の動員力の整備を明記(第8条)
統計調査国防動員潜在力の統計調査制度政府統計に組み込み、常に更新する仕組みを整備。調査対象者に正確な資料の提供を義務づけ(第26条)
軍品のサプライチェーン明文の規定なし軍品の産業チェーン・サプライチェーンの安全評価を明記(第46条)
軍品を担う企業の備蓄設備・材料・関連製品・技術(第39条)データ・ソフトウェアが加わり、定期的な演習も求められる(第47条)
国防勤務を担う業種運輸、郵便・電気通信、医療、食糧、建設、エネルギー・化学、メディアなど(第51条)同じ業種に「ネットワークセキュリティ」が加わった(第60条)
民間資源の取り上げ方「征用」のみ。使用後に返還(第54・58条)「征収」が加わった。征用は使用後に返還されるのに対し、征収は一般に所有権の移転を伴う(第63・67条)
平時の準備義務組織と公民に課す(第5条)引き続き課す(第10条)
外資系企業「外資」の明文なし同じく明文なし。「いかなる組織と個人も」民間資源の征収・征用を受ける義務を負う(第64条)

2026年9月初めには、国家発展改革委員会(NDRC)が公式サイトで「国防動員総合司」の職責を公表しました。国防動員の総合調整、計画づくり、実施の監督を担う部署です。経済政策と動員計画を一体で動かす体制が見えてきます。

誤解されやすい点もあります。第60条が国防勤務を負う業種として挙げる運輸、電気通信、医療、建設、エネルギー・化学、メディアなどは、2010年法にもほぼ同じ一覧がありました。今回の改正の中心は、業種の追加ではありません。データ・技術・サプライチェーンといった「平時の準備」の中身が、条文で具体的になったことです。


日本企業への影響

改正法が、日本企業に直接の義務を課すわけではありません。しかし影響は、「中国に拠点があるか」だけでは決まりません。取引先、仕入先、その先のサプライヤーまで含めた「つながり」で決まります。以下は、日本企業のサプライチェーン・リスク管理として見ておきたい主な4つの経路です。

経路想定される事態特に注意すべき企業
現地拠点動員の発動後、工場・設備などが「征収」「征用」の対象になり得る中国に製造子会社を持つ企業
サプライチェーン仕入先が動員され、納品が止まる。納品先が軍の用途へ振り向けられる部材・素材・レアアースを中国に依存する企業
データ国防動員に密接に関わるデータとして、現地の生産データや技術情報が法に基づく収集の対象になり得る現地に開発拠点やサーバーを置く企業
人現地の従業員や技術者が、国防勤務などに動員され得る現地の技術者に依存する企業

とりわけ電子部品・半導体、自動車部品、化学といった業種は、軍民両用技術として注視されやすい分野です。自社が国防勤務を負う業種でなくても、顧客や仕入先が通信・エネルギー・化学などの業種に当たる場合は、動員時の供給・生産・物流への影響を検討しておく必要があります。

ここで認識しておきたいのは、動員が発動されてからでは打てる手がほとんどないということです。対応できるのは平時、つまり今だけです。


与信管理の視点 ― 「健全なのに取引が止まる」リスク

与信管理では、相手の「支払能力」を見るのが基本です。しかし動員リスクは、財務が健全な相手との取引でも止め得ます。これは信用力とは別の軸です。

私は25年以上、国内外の企業信用調査に携わってきました。「相手は健全だが、国の事情で送金が止まる」という事例は、外貨不足の国でも実際に起きています。動員リスクも同じ構造です。企業の評価とは別に、国家の意思が取引を止め得るという前提で、与信を設計し直す必要があります。

取引先の評価には、次の3つを加えることをお勧めします。

視点確認すること確認の手段
支配構造国有資本や軍工系の企業が株主にいないか。実質的支配者は誰か登記情報をさかのぼった株主チェーン
業種相手やその主要顧客が、国防勤務を負う業種や軍品の関連先に当たるか事業内容と主要取引先
依存度その取引先が止まったら、自社の売上や生産がどれだけ止まるか自社の取引台帳と代替先の有無

そのうえで、依存度が高く支配構造に懸念がある先には、次のような手を平時のうちに打ちます。

  • 売掛金の与信限度額を見直し、前受やL/Cなど支払条件を組み替える
  • 仕入先は代替の調達先を確保し、在庫の持ち方を変える
  • 貿易保険や取引信用保険の対象にできるかを確認する

動員リスクを話題にすると、つい地政学の議論になりがちです。しかし実務で大事なのは、「自社の取引先のうち、どこが影響を受け得るか」を具体的な社名で把握することです。


安全保障貿易管理の視点 ― 需要者は「平時の顔」だけでは済まない

輸出管理の取引審査では、「誰が、何に使うか」を確認します。改正国防動員法が、日本企業に新たな輸出管理の義務を課すわけではありません。ただ、中国国内の民間企業や資源が国防動員に組み込まれ得ることは、制度の上でより明確になりました。そこで当社は、需要者の「平時の顔」だけでなく、動員時に用途が変わるおそれも補助的に検討することをお勧めしています。

当社が実務としてお勧めしているのは、次の3点を取引審査に加えることです。

  1. 需要者の株主と実質的支配者まで確認する。 相手の社名だけでなく、支配している企業が制裁リストや輸出管理リストに載っていないかを照合します
  2. 需要者の業種と主要顧客を確認する。 国防勤務を負う業種や軍工系の企業とつながっていないかを見ます
  3. 確認した記録を残す。 「該当なし」という結果も含めて、いつ・誰を・何と照合したかを保存します。後から当局や監査に説明できることが重要です

もう一つ、見落としやすいのが中国側の輸出管理です。中国商務部は2026年2月、日本の20団体を輸出管理の管控リストに、別の20団体を要注意(関注)リストに載せました。6月にも、さらに20団体ずつを追加しています。管控リストの団体には、中国からの軍民両用品の輸出が禁止されます。自社や日本の取引先がこれに該当すると、中国からの調達が止まります。

つまり、日本企業は「日本から中国への輸出」と「中国から日本への調達」の両方向で、管理の対象を広げる必要があります。与信管理と安全保障貿易管理は、もはや別々の部署の仕事ではありません。同じ取引先台帳の上で、一緒に管理すべきテーマです。


中村格付研究所がお手伝いできること

当社がお手伝いできるのは、「自社の取引先のどこが、どれだけ影響を受け得るか」を社名単位で可視化することです。広く浅くから始めて、気になる先だけを深く調べる順番をお勧めしています。

平時に打てる手:広く浅く始めて、気になる先だけを深く調べる5つのステップ
段階やりたいことソリューション価格(税別)
1. 全体を把握中国の仕入先・販売先を一括で健康診断する中国データマッチング1社4,800円
2. リスト照合役員・株主・実質的支配者まで、制裁・輸出管理リストと照合するNRESS1件1,000円、月50件15,000円、無制限50,000円
3. 支配構造国有・軍工系の資本とのつながりを確かめるUBOレポート/グループ解析レポート個別お見積もり
4. 取引の先主要先の仕入先・販売先トップ10社を実名で特定する中国取引先レポート88,000円(NRレポート中国標準版とのセット108,000円)
5. 取引条件の設計格付・倒産確率・与信限度額を出し、支払条件を決めるNRレポート25,000円〜

中国データマッチングは、お手持ちの取引先リストに最新の決算情報とNR格付を一括で加えます。ある案件では、約60社の中国仕入先のうち29%が赤字、3社が債務超過でした。動員リスクの前に、信用リスクの棚卸しにもなります。

NRESSは、2026年9月21日にリリースしたNR Credit Portal V2の機能です。V2は、信用調査、財務分析(NRPD、1回1,200円)、制裁・輸出管理リストの照合を、1つの画面で扱えるポータルです。

NRESSは、企業名・個人名を国際的な制裁データベースOpenSanctionsの486のリストと照合します。経済産業省の外国ユーザーリスト、財務省の経済制裁対象者リスト、米国OFACのSDNリストと統合審査リスト(CSL)、EU・英国・国連の制裁、PEPなどが含まれます。米国防総省が公表する「中国軍事企業」のリストも照合の対象です。

当社が納品したNRレポートの役員名・株主名は、納品時にレポート本文から自動で読み取られます。照合のために手で転記する必要はありません。

  • 結果は「ヒット」「要確認」「該当なし」の3つに分けて表示します。該当なしも含めて記録し、「いつ、誰を、何と照合したか」をPDFで出力できるため、監査の証跡になります
  • 1回の照会で100件まで照合できます
  • 結果の解釈に迷う場合は、輸出管理の専門家の所見を添えた精査レポートを依頼できます(1件30,000円、標準納期7営業日)。「本当に該当なしと考えてよいか」を確かめるために、該当がなかった照会からも依頼できます
  • NRESSモニタリングでは、照会した相手を登録しておくと、当社側で継続して確認し、変化があれば通知します。掲載区分の変更、掲載リストの増減、役員・親会社・子会社といった関係先の変化は毎日、新たに該当したかどうかは月2回確認します。「その会社自体は問題ないが、役員が制裁対象になった」という事態も検知できます。料金は1件につき12か月で1,800円〜900円(前払いのパック制)です

当社のレポートは、安全保障貿易管理で需要者について説明責任を果たす際に、行政機関へ開示することが利用規約上認められています。

体制づくりは、当社の顧問が支援します。

  • 女鹿田 智佳(安全保障貿易管理コンサルティング顧問):財務省東京税関で輸出入申告の審査と輸出規制の該非確認を担当。大手機械メーカーで取引審査150件超を手掛けました
  • 牟田園 申二(国内外与信管理コンサルティング顧問):事業会社で与信管理に30年以上携わり、国内外グループ全域の与信管理を統括。問題債権の処理は190件以上です

11月10日セミナーのご案内

無料セミナー「今求められる海外与信判断と、安全保障貿易の視点。」2026年11月10日(火)15:00〜16:30 会場+オンライン

本稿のテーマを、実務の手順に落としてお話しするセミナーを開催します。この改正法を「知っている」で終わらせず、自社の取引先台帳をどう見直すかまで持ち帰っていただく内容です。

「今求められる海外与信判断と、安全保障貿易の視点。~得られる情報を最大限に活かす~」

項目内容
日時2026年11月10日(火)15:00〜16:30(受付開始 14:30)
形式会場(川崎市多摩区登戸2719 玉川コスモ2階、向ヶ丘遊園駅より徒歩2分)+オンライン(Google Meet)
定員会場10名(先着順)/オンライン100名
参加費無料(事前申込制)
登壇中村 裕幸(代表取締役社長)、女鹿田 智佳(安全保障貿易管理コンサルティング顧問)
プログラムPART 1 海外信用調査報告書の読み解き方/PART 2 安全保障貿易管理の視点/PART 3 NR Credit Portal V2 ライブデモ/Q&A
申込締切2026年11月6日(金)。会場は定員に達し次第終了

輸出管理・与信管理・海外取引のご担当者、経営者の方を対象としています。特に、電子部品・自動車部品・化学など海外取引のある製造業や商社の方、「経済安全保障への対応を求められているが、社内に専門家がいない」という方にご参加いただきたい内容です。

→ セミナー詳細・お申込みはこちら

動員法は、発動されてからでは打てる手がほとんどありません。一方で、平時に打てる手は、特別なものではありません。取引先を知り、記録し、条件を設計する。与信管理と安全保障貿易管理の基本を、一つの台帳の上でやり切ることです。個別のご相談は nrinfo@nrating.jp までお気軽にお寄せください。


Sources

SEMINAR | 無料セミナー 2026.11.10 TUE

今求められる海外与信判断と、安全保障貿易の視点。

~得られる情報を最大限に活かす~

1本の海外信用調査報告書には、与信のリスクと安全保障貿易上のリスクの、両方の手がかりが入っています。1社の事例を最初から最後まで使い、報告書の読み方から、輸出管理上の論点の見つけ方、リストとの照合と記録までを90分でお伝えします。

  • 日時11月10日(火)15:00–16:30(受付14:30)
  • 形式会場(川崎市・登戸)10名/オンライン100名
  • 参加費無料(事前申込制)
  • 締切11月6日(金)※会場は定員に達し次第
セミナーに申し込む(無料)→
この記事を書いた人
中村 裕幸
中村 裕幸 / 株式会社中村格付研究所 所長

海外与信調査・経済安全保障コンサルティングの専門家。信用調査歴25年以上。北朝鮮を除く160カ国超を対象に、現地情報を出し切る「圧倒的に詳細な海外企業信用調査レポート」を提供する。専門は海外与信調査、経済安全保障、UBO(実質的支配者)調査、中国企業のデューデリジェンス(China Series)。格付・倒産確率・与信限度額からESG・カントリーリスク・経済安保スクリーニングまでを一体で提供し、追加料金なしの日本語報告を強みとする。

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