「うちはロシアと取引していないから関係ない」は、本当か
2026年10月2日、外務省・財務省・経済産業省は、ウクライナ情勢をめぐる外為法に基づく追加措置を発表しました。ロシア関係者の資産凍結の追加に加えて、ロシアでもベラルーシでもない国の団体への輸出禁止や、特定の船舶へのサービス提供の規制が含まれています。さらに10月16日には、ロシア向けに輸出を禁止する品目が102品目追加されました。
ロシアとの直接取引がない会社にとって、こうした発表は「自社には関係のない話」と受け止められがちです。しかし今回の措置を読むと、制裁の対象は「ロシアの会社」だけでなく、ロシアに物を流す第三国の会社や、ロシア向けに使われる船へと広がっています。与信担当にとっては、輸出管理部門だけの話ではなく、取引先の支払能力や取引の継続に直接かかわる変化です。
本稿では、今回の措置の中身を政府の公表資料で確認したうえで、与信担当が見直すべき点を整理します。
10月の追加措置の中身
公表資料によれば、今回の措置は次の4つで構成されています。
1. 資産凍結等の追加(10月2日から)
ロシア連邦の関係者として、33団体・9個人が新たに資産凍結等の対象になりました。対象者への支払や、預金・貸付などの契約は許可制になります。経済産業省の説明資料では、資産凍結等の対象は合計で1,026個人・403団体と、銀行17行とされています。
2. 第三国の特定団体への輸出等禁止(10月2日から)
ロシア・ベラルーシ以外の国にある団体として、トルコの1団体、アラブ首長国連邦(UAE)の3団体が、輸出等の禁止の対象に加わりました。説明資料によれば、この「第三国の特定団体」は合計60団体になります。今回追加されたUAEの3団体のうち2団体は、社名に「Auto Parts(自動車部品)」「Export(輸出)」を含んでいます。
3. 特定の船舶への役務取引等の規制(10月2日から)
35隻の船舶について、財務省告示で定めるサービスの提供や、船舶の売買に伴う貸付・保証が許可制になりました。10月2日より前に結んだ契約の履行で、11月1日より前に行われるものは対象外とされています。
4. ロシアの産業基盤強化に資する物品等の輸出禁止(10月16日施行)
HSコード6桁で102品目が追加されました。説明資料には、塩素、水素、窒素、鉄鋼製品、銅やアルミニウムとその製品、卑金属製品などが例として挙がっています。あわせて化学物質9物質の追加と、工作機械用プログラムの提供の禁止も決まりました。改正政令は10月6日に閣議決定、10月9日に公布され、10月16日に施行されています。
与信担当にとって、何が変わるのか
1. 「第三国の取引先」そのものが対象になりうる
これまで制裁の話題は「ロシアの取引先がいるかどうか」で考えられがちでした。今回のように第三国の団体が名指しで追加されると、UAEやトルコの取引先が、ある日から輸出禁止の相手になることがありえます。そうなれば、出荷は止めざるをえず、受注残や前受金、売掛金の扱いが問題になります。
2. 取扱品目の範囲が広がり、「昨日まで問題なかった取引」が変わる
102品目には、鉄鋼・銅・アルミニウム製品のような汎用品が含まれます。ロシア向けを直接扱っていなくても、取引先がこれらをロシアへ再輸出していないかという観点で、仕向地や最終用途の確認が以前より重くなります。確認に時間がかかれば、取引先の資金繰りや取引条件にも影響が出ます。
3. 取引先の「取引先」が対象になると、支払能力に響く
自社の取引先が対象にならなくても、その取引先の主要な販売先や仕入先、使っている船が対象になることがあります。取引先の売上の一部が止まったり、物流が滞ったりすれば、支払が遅れる原因になります。与信判断では、取引先のロシア関連取引への依存度を確認しておく価値があります。
4. 資産凍結の相手への「支払」は許可制
資産凍結等の対象者への支払は許可制です。取引先の親会社や関係会社が対象になった場合、代金の受け払いの経路を確認する必要が出てきます。役員・親会社の変化を追う考え方は「取引開始時は問題なしでも、半年後は分からない」で取り上げました。
実務での確認手順
ステップ1:取引先を、更新後のリストで再照合する
取引先の社名だけでなく、親会社・主要株主・役員も対象に含めます。照合の結果は、該当がなかった場合も記録に残します(「「該当なし」も記録に残す」参照)。
ステップ2:仕向地が第三国の取引を洗い出す
UAE、トルコをはじめ、ロシアへの経由地になりやすい国・地域の取引先を一覧にし、取扱品目が今回の102品目に当たるかを輸出管理部門と確認します。経由地をめぐるリスクは「F-35部品の香港誤送付」の記事でも触れています。
ステップ3:影響を受ける取引先の与信を見直す
対象になった取引先、またはロシア関連取引への依存度が高い取引先について、受注残・売掛金・前受金を確認し、必要なら与信限度額や決済条件を見直します。
ステップ4:契約と社内ルールを確認する
制裁対象になった場合の契約解除条項や、出荷停止の判断者を確認しておきます。誰が判断し、誰に連絡するかが決まっていないと、対応が遅れます。
ステップ5:今後の追加にそなえて、継続監視に切り替える
こうした追加措置は今後も続くと考えられます。取引開始時の一度きりの照合ではなく、取引中も継続して確認する体制にしておくと、次の追加にも早く気づけます。
安全保障貿易管理の基本的な考え方は、連載「安全保障貿易管理」もあわせてご覧ください。
当社サービスでどう補えるか
当社の NR Credit Portal V2 では、「NRESS(経済安全保障スクリーニング)」で、取引先や役員・株主の名前を OpenSanctions のデータベース(商用ライセンスに基づき利用)と照合できます。照合の対象は、制裁・輸出管理リスト・PEP を含む486のリストです。日本の財務省の経済制裁リスト(資産凍結)や、経済産業省のロシア関連の輸出禁止団体のリストも含まれており、今回追加されたUAE・トルコの4団体も収録されていることを確認しました(2026年10月22日時点)。結果は「ヒット/要確認/該当なし」の3区分で表示され、該当なしも記録として残ります。
照合した相手を登録しておけば、「NRESSモニタリング」で当社側が毎日確認し、新たな該当や関係先の変化があれば通知します。今回のような追加措置のたびに、取引先一覧を手作業で照合し直す負担を減らせます。
また、取引先の株主・役員や主な取引関係は、NRレポートなどの信用調査報告書で確認できます。照合の結果の意味に迷う場合は、輸出管理の専門家の所見を添える「NRESS精査+専門家コメント」もご利用いただけます。詳しくは NRESS のサービスページ をご覧ください。
まとめ
- 2026年10月の対ロシア追加措置では、資産凍結の追加(33団体・9個人)、UAE・トルコの4団体への輸出禁止、35隻の船舶への役務規制、102品目の輸出禁止が決まりました
- 制裁の対象は「ロシアの会社」から、第三国の会社や船へと広がっています。ロシアと直接取引がなくても無関係とは言えません
- 与信担当は、取引先とその親会社・役員の再照合、第三国向け取引の洗い出し、影響を受ける取引先の与信の見直しを進めましょう
- 追加措置は今後も続くと考えられます。一度きりの照合から、継続監視への切り替えを検討してください
「ロシアと取引していないか」ではなく、「取引先が、どこと、何を取引しているか」。制裁の時代の与信管理は、取引先の先まで見ることが求められています。
(中村格付研究所)
出典
- 外務省・財務省・経済産業省「ウクライナ情勢に関する外国為替及び外国貿易法に基づく措置について」(2026年10月2日) https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/downloadCrimea/20261002press_russia.pdf
- 経済産業省「外国為替及び外国貿易法に基づく輸出貿易管理令等の改正について(ロシア連邦の産業基盤強化に資する物品等の輸出等の禁止措置)」(2026年10月6日) https://www.meti.go.jp/files/000005475.pdf
- 経済産業省「輸出注意事項2026第5号」(2026年10月9日) https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/download/export/2026/20261009_005_ex.pdf
- OpenSanctions https://www.opensanctions.org/
- OpenSanctions「Japan METI Russian List」 https://www.opensanctions.org/datasets/jp_meti_ru/
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