
中国による日本産水産物の輸入停止を受け、ホタテなどの水産物輸出は新たな展開を迎えています。読売新聞(2025年5月9日朝刊)によると、日本政府や業界団体は中国依存からの脱却を目指し、東南アジア諸国を経由して米国市場を開拓するルートを拡大しています。
米国は「代替市場」ではなく、もともとの最終消費地
一見すると米国が中国に代わる新たな輸出先として注目されているように見えますが、実際にはこれまで中国向けに輸出されたホタテの多くは、中国で加工された後、米国に再輸出されていました。つまり、米国は以前から最終的な消費地であり、今回の動きは「中国を経由せずに直接米国へ輸出する」方向へのシフトといえます。
直接輸出を目指す企業の増加
それでも、中国の規制以降、米国で水産物卸を行う企業のリストアップ依頼が急増しており、日本の水産事業者の間では、仲介を通さず米国と直接取引を行う動きが加速しています。中にはベトナムやタイで加工を行い、そこから米国へ輸出する「第三国経由モデル」を模索する企業も現れています。
東南アジア企業との取引リスクに注意
こうした流れの中で、タイやベトナムといった東南アジア諸国の企業に加工を委託する事例が増加しています。これらの国々は政治的リスクが中国より低いとされる一方で、与信リスク(契約履行能力や経営の安定性)は中国企業と同程度に高い傾向があります。したがって、東南アジア企業と取引する際には、企業信用調査報告書を活用した「取引先の健康診断」が欠かせません。また、契約後も定期的にモニタリングを行い、経営状態に変化がないかを確認する体制が重要です。
倒産リスクの現状と背景
2023年1~7月の日本国内の水産業者の倒産件数は23件にのぼり、前年同期比で35.2%増加。これは2019年以来の高水準で、燃料費・人件費の高騰、物価上昇、コロナ関連支援の打ち切りなどが背景にあります。中国の輸入停止も追い打ちをかける形となりましたが、倒産の直接要因とはされていません。
特に年商1億円未満の小規模事業者が全体の約4割を占め、経営基盤の脆弱さが浮き彫りになっています。大分県では、養殖ハマチ2万匹の輸出キャンセルによって1億円超の損失が発生した事例も報告されました。
新たな展開には与信管理の強化が必須
今回の「脱中国」戦略は、長期的には輸出多様化によるリスク分散につながる可能性がありますが、その実現には加工委託先や販売先の信用を見極め、健全な取引を継続できる体制の構築が不可欠です。
当研究所では、与信判断のご相談や、取引モニタリングに関するアドバイスも承っております。新たな輸出戦略を進める上で、ぜひご相談ください。