
海外企業との取引や信用調査を行う際、日本企業が最初に直面する「壁」の一つが、対象企業の正確な特定です。特にアメリカ企業の場合、この問題はより深刻です。
「社名で検索しても情報がバラバラ」「同じような名前の会社が複数ヒットする」「どれが本店なのかわからない」——こうした声はよく聞かれます。
なぜアメリカ企業の特定がここまで難しいのでしょうか? その背景には、日本とはまったく異なる登記制度の構造があります。
日本とは違う!アメリカの登記制度は「分散型」
州ごとに管理される登記制度
アメリカでは、企業の設立・登記は各州政府(Secretary of State)の管轄です。
企業が法人として成立するには、州に定款を提出して「Certificate of Incorporation(設立証明書)」を取得する必要があります。
つまり、企業登記の仕組みは「州単位」で運用されており、全国共通の法人登記番号という概念は存在しません。
州が違えば別法人扱いになることも
たとえば、ある企業がデラウェア州で設立され、後にカリフォルニア州にも支店を構えた場合、両州で異なる法人登録番号(File Numberなど)が割り当てられます。
しかも、どちらが本店か、あるいは別法人なのかの判断も一筋縄ではいきません。この「ばらつき」が、企業特定を一層難しくしています。
一つに絞れない企業識別番号の世界
アメリカでは以下のように、目的ごとに異なる番号体系が並立しています。
番号 | 管轄・発行者 | 目的・利用シーン | 特徴 |
---|---|---|---|
州法人番号 | 各州の州政府 | 登記・法的識別 | 州ごとに異なり、全国共通ではない |
EIN(連邦雇用者番号) | IRS(米国歳入庁) | 税務・雇用管理 | 全国で一意だが、登記情報とは非連動 |
D-U-N-S番号 | Dun & Bradstreet社 | 信用調査・企業間取引 | 民間発行。法的効力なし |
その他 | FDA番号、EPA番号など | 業種ごとの登録 | 登録目的限定、汎用性なし |
どの番号も、それぞれの目的において企業を一意に識別しますが、「全てに通用する唯一の企業番号」は存在しないのです。
実務上の混乱:調査対象の企業がどれか分からない!
この制度の特性は、信用調査の実務において大きな混乱を招きます。
- 「同名の企業が複数表示されて、どれを見ればいいのかわからない」
- 「調査対象の企業が複数州に登録されているが、本店はどこか不明」
- 「取引相手から提供されたEIN番号を調べても、登記情報と結びつかない」
こうした状況は日常的に起こります。信用調査会社のデータベースでも、検索結果が複数に分かれて表示されることは珍しくありません。
企業特定のために押さえておくべきポイント
- 企業名だけでなく「本社所在地」や「設立年」などの周辺情報も確認
企業名は重複が多いため、補足情報で絞り込みが必要です。 - 複数州での登録状況を確認する
本店以外にも登録がある場合、どの州で「最初に設立」されたのかを見ることで本社を推定できます。 - 企業クレジットレポートでは「親会社」「支店」「関連法人」の記載に注目
レポートの中には、企業グループ全体の構造が記載されていることがあります。
まとめ:アメリカ企業の調査は「識別番号の違い」との戦い
日本のように一つの法人番号で全情報が連動する仕組みとは異なり、アメリカでは制度的に「企業特定が難しい構造」になっています。
その背景には、
- 州ごとの分権的な管理
- 番号ごとの用途の違い
- 民間と行政の役割分担
といったアメリカ独自の制度設計があります。
企業調査においては、「なぜ一意に特定できないのか」を理解したうえで、情報を組み合わせて確認する力が求められます。
中村格付研究所では、アメリカ企業の特定に悩む企業担当者のために、個別相談や調査代行サービスも行っています。
米国企業調査でお困りの方は、お気軽にご相談ください。