企業信用調査での経験

企業信用調査

 「与信管理」に付随する単語として聞かれる企業信用調査について、みなさんはどんなイメージをもっているでしょうか。帝国データバンク?東京商工リサーチ?粒ぞろいの東京経済?

 私が尊敬する「与信管理者」の牟田園先生は、決算書アラート分析や、信用調査会社のレポートという単語をよく使われていました。たびたび議論したのは、企業信用調査を行う「信用調査会社」は、調査、取材、経営分析を行うプロであっても、その成果物を参考にして行われる「与信管理」のプロではないという事です。与信管理の相談を信用調査会社にするのは、タクシーの運転手に良い車の作り方を聞くようなものです。

信用調査会社と与信管理

 業界最大手と呼ばれる信用調査会社からキャリアをスタートした当時、私はこの違いがよく理解できていませんでした。信用調査ができれば、その川下の業務である与信管理は「簡単にできるもの」と教わりましたし、内弁慶な先輩達は「四六時中、当社が書いたレポートを読んで仕事したふりをしている連中がいるんだ。」などと、与信管理担当者を明らかに見下していました。

 私がその違いについて理解できるようになるのは、約10年後に新卒で入社した業界最王手を退職して以降になります。会社年鑑の販売ノルマを抱えたまま、市ヶ谷オフィスを逃げるように去ったあと、2つの信用調査会社を渡り歩きました。

 名刺から業界最王手の冠が外れて、与信管理担当者とよりフランクなお話ができるようになったように思います。調査員だけで1500人以上いるような組織の中では、新人に任せてもらえる企業は限られます。しかし転職後は、大手企業の担当者とも接する機会ができ、非常に多くを学ばせてもらいました。なにかにつけ業界最王手出身を名乗る若造は、さぞかし疎ましい会話相手だったとは思いますが。

 そうした会話中で気付かされた与信管理担当者の知見の広さは、とても驚くべきものでした。実は、信用調査報告書を読むことが彼らの仕事の大方を占めるのではなく、信用調査は彼らの仕事にとってごく一部の参考情報を得るプロセスでしかないと教わりました。

このカテゴリーの狙い

 そんな私だからこそ、信用調査会社に勤める方にお伝えできる与信管理の話があると思いますし、与信管理担当者に対して信用調査がどのように行われているのかを伝えることにより、より効果的な情報の活用に役立つと考えています。

 定性・定量の両面から、人・もの・金の分析を行い、その結果を30ページ程の文章で報告する。その調査報告の為に、朝7時から夜3時まで仕事せざるを得ない「調査員」がいて、一件の報告書作成に3万円~5万円のコストを掛ける。与信管理担当者は、そうした調査報告書を参考に、与信の承認可否、取引枠の決定に数時間を費やす。場合によっては良い情報を得るために、いらない商品を買わされる。

 そんなことをやっているのは、世界中で日本だけです。

 この製造側とユーザー側の相互理解が、日本の与信管理プロセスをより合理的に、より建設的に発展する事につながれば、うれしい限りです。

この記事を書いた人
中村 裕幸
中村 裕幸 / 株式会社中村格付研究所 所長

海外与信調査・経済安全保障コンサルティングの専門家。信用調査歴25年以上。北朝鮮を除く160カ国超を対象に、現地情報を出し切る「圧倒的に詳細な海外企業信用調査レポート」を提供する。専門は海外与信調査、経済安全保障、UBO(実質的支配者)調査、中国企業のデューデリジェンス(China Series)。格付・倒産確率・与信限度額からESG・カントリーリスク・経済安保スクリーニングまでを一体で提供し、追加料金なしの日本語報告を強みとする。

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