──Eddie Bauer北米法人チャプター11から読む「ブランドの相対価値」と固定費モデルの限界

2026年、米国老舗アウトドアブランド Eddie Bauer の北米店舗運営法人が、再びチャプター11を申請しました。
まず整理すべきは、今回破綻したのは「ブランドそのもの」ではないという点です。
破綻したのは、米国・カナダで実店舗を運営していたEddie Bauer LLC(親会社:Catalyst Brands 傘下の事業会社)です。
ブランドの知的財産(IP)は、Authentic Brands Group(ABG)が保有しています。
さらに重要なのは、
北米のECおよび卸売は、2026年1月にOutdoor 5 LLC(Oved)へ移管されており、今回のチャプター11の対象外となっています。
つまり今回の破綻は、「ブランド崩壊」ではなく、重い固定費を抱えた実店舗オペレーターの資本構造破綻 と整理するのが妥当です。
本稿では、この事象を単なる一社の倒産としてではなく、「選択肢が無限化した時代のブランド経営」という視点から考察します。
1. どこが倒れたのか──IPとオペレーターの分離
現在のファッション・小売業界では、 IPホルダー(ブランド保有)、チャネル別ライセンシー(店舗、EC、卸など)が分離するモデルが一般化しています。
Eddie Bauerも例外ではありません。
ABG:ブランドIPを保有
Eddie Bauer LLC:北米の実店舗を運営
EC・卸:別ライセンシーが担当
この構造では、 ブランドは“資産”、 店舗運営は“リスク”になります。
IPホルダーは身軽にロイヤルティを得られる一方、在庫・賃料・人件費・物流コスト・債務を背負うのはオペレーター側です。
環境が悪化したとき、最初に行き詰まるのは後者です。
2. インターネット普及は“原因”か?
結論から言えば、ECは直接原因ではないが、無視できない構造要因です。
来店理由の消失
ECの普及により、
検索で即購入
価格比較が瞬時
在庫確認不要
となりました。
モール来店の動機は構造的に減少しています。
しかしECは“救済装置”にならない
仮にオンライン売上が伸びても、
店舗賃料は下がらない
人件費は固定
在庫は抱え続ける
2026年時点では、北米のECおよび卸売事業はOutdoor 5に移管されており、破綻したEddie Bauer LLCは店舗運営に特化したライセンシーとなっていました。
そのため、EC成長の果実を自社BSに十分に取り込めない一方で、店舗固定費と債務を抱え続ける構造に陥っていた可能性があります。
ECは“競争相手の増加装置”でもあります。
D2Cブランド、越境EC、SNS発ブランドが同一画面に並ぶ時代に、ブランドは常に相対比較に晒されます。
3. ブランドは“絶対値”ではなく“相対値”
消費者の選択肢は爆発的に増えました。
かつては百貨店やモールに並ぶブランドが「世界」でした。
現在はスマートフォンに世界中のブランドが並びます。
ブランドの価値は、
歴史
知名度
過去の栄光
では維持できません。
常に、今この瞬間に、他ブランドより選ばれる理由が必要です。
Eddie Bauerは、
* 本格派では Patagonia
* 技術特化では Arc’teryx
* マス市場では The North Face
に挟まれ、中間ポジションに置かれました。
EC環境では、この中間ポジションが最も削られやすい。
4. 「まさか」の破綻は珍しくない
日本でも、VANやJUNなど、一定の知名度を持つブランドが破綻しています。
共通するのは、ブランド力がゼロになったのではなく、相対的魅力度が低下したという点です。
魅力度が少し下がる
→ 来店客数が減る
→ 値引き増加
→ 粗利低下
→ キャッシュ減少
固定費モデルでは、この連鎖が急速に進行します。
5. 財務構造の脆弱性
申立書ベースでは、
* 資産:1億〜5億ドル
* 負債:10億〜100億ドル
負債が大きく上回っていました。
レバレッジは景気拡大局面では武器になりますが、コスト上昇局面では増幅装置になります。
インフレ、物流費上昇、関税不確実性が重なり、営業してもキャッシュが減る構造に陥ったと推測されます。
6. 20年で複数回の再建
* 2003年:Spiegel Inc. 破綻の影響
* 2009年:Eddie Bauerがチャプター11
* 2026年:北米店舗法人が再び申請
オーナー変更を繰り返すブランドは、長期戦略が揺れやすい。メディアによっては、2003年の親会社Spiegel破綻を含めて「3度目の破綻」と表現する向きもあります。
ポジショニングの曖昧化は、中長期でブランドの輪郭を薄めます。
7. 本質は「EC時代に適応できない重いモデル」
今回の破綻は、
ECが伸びたから倒れた
ではなく、
EC時代に適応できない固定費モデルを抱えていた
ことが本質です。
ブランドはIPとして生き続けるかもしれない。
しかし、リアル店舗という体験空間は消える可能性がある。
アウトドアブランドの価値が、
* フィールド体験に根差すものなのか
* ロゴとストーリーを売るIPなのか
この問いが改めて浮かび上がります。
8. 与信管理への示唆
今回の事例は、以下の点を強く示唆します。
1. ブランド知名度は信用力ではない
2. IP保有主体とオペレーターは必ず分けて分析する
3. EC権利の所在は事業価値を左右する
4. 固定費比率が高い企業は売上変動に極めて脆弱
5. オーナー変更の多さは戦略不安定のシグナル
結論
Eddie Bauer北米法人の破綻は、老舗ブランドの衰退物語ではなく、 選択肢が無限化した時代における“相対価値競争”と“重い固定費モデル”の衝突の結果です。
ブランドは絶対値ではなく相対値で決まる。
そして、相対価値が少しずつ削られたとき、固定費と負債が重い企業は、静かに、しかし確実に市場から退場します。
これはEddie Bauerだけの話ではありません。
日本のアパレル、小売、モール依存企業にとっても、他人事ではない構造問題です。
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