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「信用調査に応じるな」は本当に正解か?—帝国データバンクを誤解してはいけない理由


最近、ある税理士がやっているYoutube動画で「帝国データバンク(TDB)から会社情報の提供を求められても応じるな」と主張するものを目にしました。
その論旨は、「情報を出すと不利益になるかもしれない」「情報が勝手に広まる」といった懸念に基づいています。

しかし私は、この考え方には強く反対します。
というのも、信用調査会社は金儲けのために存在するのではなく、経済の健全な発展を支える“信用インフラ”として機能しているからです。


帝国データバンクの原点は「詐欺から企業を守ること」

帝国データバンクは、1900年初頭、詐欺師まがいの企業が横行した時代に創業されました。
戦後ではなく、日露戦争後の好景気に沸く中、数多くの“見せかけの会社”が誕生し、多くの企業が被害に遭いました。

後藤武夫氏は、そうした詐欺的企業から会員企業を守るために帝国データバンクを立ち上げたのです。
つまり、信用調査のルーツは「企業を守るための公益的活動」であり、決して収益至上主義ではありません。


なぜ情報を出す必要があるのか:日本と世界の違い

ヨーロッパやシンガポールでは、企業は政府機関に対し年次の財務データ、役員構成、株主情報などの詳細を届け出る義務があります。
これが“標準”であり、“公開して当たり前”という前提の上に企業信用は成り立っています。

一方、日本ではそうした公的情報開示の義務は非常に限定的です。
この情報ギャップを埋め、社会全体がリスクを正しく判断できるようにしているのが、帝国データバンクや東京商工リサーチといった民間の信用調査機関なのです。


情報を出さないという姿勢が、かえってリスクを招く

信用調査の依頼に非協力的な企業は、「何かを隠しているのではないか?」と見られがちです。
事実、調査対象の企業にヒアリング拒否やデータ未提出の傾向があれば、金融機関や取引先はそのリスクを織り込み、より保守的な姿勢をとるでしょう。

つまり、情報を出す=リスクではなく、情報を出さないことが最大のリスクになる時代なのです。


BtoCでも起きた“信用調査の不在”がもたらした悲劇

企業間取引だけではありません。BtoCでも、信用調査が不在だったことで甚大な被害が起きました。

  • 「晴れの日」事件:成人式の着付けや写真撮影の事業者が突然の営業停止。多くの消費者が被害を受けました。
  • 「カボチャの馬車」スキーム:サブリースを利用した不動産投資詐欺。投資家がローンだけを抱える事態に。

これらは、事前に企業実態が可視化されていれば、避けられた可能性がある事件です。
情報公開と信用調査は、消費者保護にもつながる社会的装置なのです。


海外の先進事例:クレジットビューロの力

シンガポールでは、離婚後に養育費や慰謝料を支払わない元夫に対し、クレジットビューロが経済的制裁を課す仕組みがあります。
債務が履行されるまで、口座開設やカード利用が制限されるため、実効性のある社会的プレッシャーが働きます。
この制度によって、シングルマザーが泣き寝入りする構造に一石が投じられました。

またアメリカでは、政府に対する企業情報の開示義務がない代わりに、信用調査会社への「嘘の情報を出してはいけない」という商慣習が根付いています。
これは、情報提供者と調査機関の信頼関係が経済の土台になっているという証左です。


結論:信用調査に応じることは、信頼を生む“社会的責任”である

たとえ中小企業であっても、「自社の情報は出さない」という姿勢は、社会的責任の放棄に他なりません。
法人格を有し、税制優遇や法的保護を受ける以上、社会の信用構造に参画する義務があるのです。

情報開示を拒否することは、“透明な経済”に対する協力拒否と同じです。
だからこそ、信用調査機関への情報提供は「企業の任意対応」ではなく、“社会的義務”であり“信頼を生む責任ある態度”なのです。

「“「信用調査に応じるな」は本当に正解か?—帝国データバンクを誤解してはいけない理由」へのコメント(2件)

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