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初めての管財人

パチンコ業界の経営悪化

前の記事でも触れたように、パチンコホールを中心とした業界は、人間の射幸心と「遊び」への欲求、そしてそこから生まれる巨額の売上に支えられ、不況とは無縁の世界のように思われていました。
しかしその後、出玉規制による射幸性の抑制、パチンコ台の減価償却期間の短縮、リース資産のオンバランス化などにより、経営環境は徐々に悪化。倒産に至るホールも少しずつ出始めることとなります。

当時、私が勤めていた信用調査会社では「全国パチンコ業界動向調査」と題した特集が組まれ、日経新聞にも引用されるほどの注目を集めました。中でも驚いたのは、全国的にはパチンコホールの減少が進んでいたにもかかわらず、私の故郷・秋田県だけが、店舗数・売上ともに増加していたという記述です。記事を読みながら、思わず笑ってしまったのを覚えています。


未収金

その頃、東上野にあるパチンコ台の卸会社には3〜4回ほど調査で訪問していました。40代半ばで体格のよい社長が経営しており、大手ホールとのつながりもあり、年商はおよそ4億円。調査会社が提供するオンラインデータサービスも継続的に契約してくださり、毎月1〜2万円ほど利用していただいていました。

ところが、2年ほど経過したある日、上司に呼び出され「未収金リストにこの会社の名前がある。至急、回収してくるように」との指示を受けました。
あれほど律儀だった社長がまさか、という思いが先に立ち、「きっと何かの手違いだろう」と考えながらオフィスや携帯に何度も電話をかけましたが、つながりません。


債権回収

調査でもないのにわざわざ足を運ぶのは正直面倒に感じていましたが、ついでに近くの焼肉屋で牛丼でも食べようかと、軽い気持ちで東上野のオフィスを訪ねました。

しかし到着して驚きました。
エントランスのドアは開け放たれ、いつも社長と話していた椅子も、観葉植物も、すべての什器がなくなっていたのです。
奥には一人の初老の男性が黙々と書類に目を通していました。
私に気づくと彼は突然、「なんだ、債権者か!!!」と怒鳴ってきたのです。外見とは裏腹なその大声に、私はあっけにとられました。

「いえ、信用調査会社です」と伝えると、「信用調査会社が何の用だ!!!」と再び怒鳴られ、私は後ずさりしながら退散。訳の分からなさと悔しさで、頭が真っ白になりました。


再会

焼肉屋へ向かってトボトボ歩きながら、「お金って、本当に払ってもらえないことがあるのか」と、初めて知ったような気持ちになっていました。
しかも、自分のお金ではない分、怒りよりも「なぜあの律儀な社長が…」という喪失感のほうが強く残りました。

昭和通りあたりに差しかかったとき、前から電話しながら歩いてくる、見覚えのある体格の人物が。社長でした。

思わず、「さっきオフィス行きましたよ。怖い人に怒鳴られました。什器、どうしたんですか?」とまくしたてると、

「ごめんね、会社を畳むことになってしまって…。そういえば、データの利用料金は大丈夫?」と、社長のほうから気遣ってくれました。

「数万円の請求が残っています」と答えると、社長は長財布からその金額をぴったり手渡してくれました。領収書などは求めませんでした。
それはきっと、社長自身の最後のポケットマネーだったのでしょう。

「またね。元気でね。」

「社長、どうもありがとうございました。」

私は深く頭を下げ、その姿を見送りました。

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