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米国関税+中国減退に直面する日系企業 ― 注目市場を探る(第2回 欧州:中東欧・スペイン)

シリーズの狙い

米国の関税圧力と中国市場の減退は、日系企業にとって市場戦略の見直しを迫る要因です。
本シリーズでは、地域ごとに有望市場を整理し、Pros(市場機会)・Cons(リスク要因)・米国関税との関係性・魅力のまとめ を提示しています。

今回は「欧州編」として、中東欧(ポーランド・チェコ・スロバキア)とスペイン を取り上げます。

中東欧(ポーランド・チェコ・スロバキア)

基本概況

ポーランドは人口3,860万人前後(2025年推計)に達し、EU主要国の一角を占めています。労働市場の供給力は依然高く、製造業集積が続いています。チェコ・スロバキアは自動車依存度が高く、とくにスロバキアは一人当たり自動車生産台数が世界首位級です。EV関連投資も集中しており、韓国LGエナジーソリューションのヴロツワフ工場拡張、SKイノベーションや中国CATLの投資に加え、2024年以降は米FordやVolkswagen傘下によるバッテリー開発拠点が注目を集めています。

日系企業が強みを発揮できる産業

自動車部品や精密機械は日系企業の伝統的強みです。加えて、軽量素材や化学材料などEVシフトを支える分野での競争力も期待されます。再生可能エネルギーや環境技術、鉄道や物流といったインフラ分野でも日系の技術力が活かせる領域があります。

Pros(市場機会)

EU復興基金(NextGenerationEU)からの資金流入が、鉄道電化、再生エネ投資、インフラ改善を後押ししています。ポーランドは2024年にEU最大の電池生産国となり、欧州のEVサプライチェーンでの地位を確立しました。さらに、パンデミック後は「近接型製造拠点(Nearshoring)」需要が高まり、欧州市場に供給するための戦略拠点としての存在感が増しています。

Cons(リスク要因)

ポーランドでは2023年の総選挙で政権交代があり、EUとの司法対立は緩和方向に向かう一方、政策の一貫性リスクは残存しています。ロシアによる戦争の長期化で防衛需要が高まり、人材や資材が軍需産業にシフトする懸念もあります。また、人件費は2015年比で約1.7倍に上昇しており、低コスト優位は徐々に縮小しています。

米国関税との関係性

米国関税の直接的影響は小さいですが、中国からの供給回避に伴い「欧州内の製造拠点」としての重要性が高まっています。欧州市場を主戦場としつつ、米国やアジアへの輸出においても「欧州版チャイナ・プラスワン」の役割を担う位置づけです。

業界別有望度ランキング(中東欧)

  1. 自動車部品・EV関連(電池、軽量素材)
  2. 精密機械・工具
  3. 環境技術・再生エネ(風力・バイオマス)
  4. 物流・鉄道・インフラ
  5. 化学・新素材

魅力のまとめ

中東欧はコスト上昇や地政学リスクといった課題を抱えていますが、EU資金投入によりインフラ・再エネ・EV分野の投資が集中しており、「欧州版チャイナ・プラスワン」としての位置づけは強まっています。EU市場をターゲットにする日系企業にとって、製造拠点としての魅力は依然大きいといえます。

スペイン

基本概況

スペインの人口は約4,760万人(2025年推計)。GDP規模はイタリアに近く、EUで第5位です。自動車生産ではドイツに次ぐ欧州第2位を維持していますが、EVシフト対応には課題があります。中国BYDや米Teslaの動向次第でサプライチェーンが変化しつつあります。再生可能エネルギー分野では欧州をリードしており、太陽光発電容量は2023年にドイツを抜き欧州首位に立ちました。

日系企業が強みを発揮できる産業

太陽光・風力を中心とした再生可能エネルギー、食品加工や農業ICT、観光関連のデジタルサービスにおいて日系企業の強みが発揮できます。高付加価値製造業(航空宇宙・医療機器)においても、欧州市場を通じた展開の余地があります。

Pros(市場機会)

EUの「RePowerEU」政策により、スペインは再エネ投資の中心国と位置づけられています。水素や洋上風力への拡張も進み、長期的な需要拡大が期待されます。観光分野では2024年に訪問者数が8,500万人を超え世界第2位となり、関連産業の裾野は極めて大きいです。加えて、中南米との関係強化が継続しており、欧州拠点からラテンアメリカ市場を狙う戦略は合理的です。

Cons(リスク要因)

財政赤字比率は依然GDP比で5%超であり、EU財政規律(2024年復活)により歳出抑制圧が増しています。政治的には2023年総選挙後、社会労働党と急進左派勢力の連立政権が存続しており、政策の不透明感が残ります。加えて、中東欧に比べ賃金水準が高く、製造業の価格競争力は限定的です。

米国関税との関係性

米国関税の直接的影響は限定的ですが、米国が中国製再エネ関連製品に対して規制を強めているため、欧州製技術への需要が拡大しています。特にスペインの太陽光・風力発電技術は国際的に評価が高く、日系企業にとって提携や資本参加の機会が広がっています。

業界別有望度ランキング(スペイン)

  1. 再生可能エネルギー(太陽光・風力・水素)
  2. 観光・デジタル観光サービス
  3. 食品加工・農業関連(ICT応用)
  4. 高付加価値製造業(航空宇宙・医療機器)
  5. ロジスティクス(欧州—ラ米ゲートウェイ)

魅力のまとめ

スペインは財政赤字や政策不安定性を抱えていますが、「再エネ拠点+観光回復+ラテンアメリカ接続国」という独自の強みを持ちます。EU政策支援に支えられた再エネ投資や観光回復は成長を後押ししており、日系企業にとって欧州戦略の多角化拠点として大きな魅力を維持しています。

おわりに

中東欧とスペインは、ともに米国関税の直接影響は限定的ですが、中国依存からの供給網シフトとEU資金による成長投資が進んでいます。
中東欧は「製造業・EV電池サプライチェーンの中核」、スペインは「再エネ・観光・ラ米接続拠点」という特徴を持ち、リスクを踏まえても依然として魅力的な市場です。

中村格付研究所では、各国における 販売候補先・提携候補先・競合企業リストアップ を通じ、海外進出戦略に不可欠な情報を提供しています。

次回は「南米編」として、ブラジル・メキシコを中心に展望を解説します。

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