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自動車部品大手マレリの倒産と米国Chapter 11申請の背景——KKRファンドの関与と倒産手続きの基礎知識

最近、自動車部品大手マレリ(旧カルソニックカンセイと旧マニエッティ・マレリの統合企業)が経営破綻の方向にあり、話題となっています。本稿では、マレリ倒産の背景や問題点、出資者であるKKRファンドの性質、さらに米国連邦破産法第11章(Chapter 11)申請の意味について解説します。

マレリの倒産とその問題点

マレリは、2019年に日本のカルソニックカンセイとイタリアのマニエッティ・マレリが統合して誕生したグローバル自動車部品メーカーです。本社は埼玉県さいたま市にあり、世界23カ国で約45,000人の従業員を擁しています。主な事業内容は自動車用照明、電子システム、インテリアエクスペリエンス、推進ソリューション、ライドダイナミクス、グリーンテクノロジーなど多岐にわたり、日産自動車やステランティスなど世界の大手自動車メーカーに部品を供給してきました。

しかし、2019年の統合以降、買収負担や日産自動車・ステランティスの業績低迷、コロナ禍や半導体不足など外部環境の悪化により、経営が大きく揺らぎました。特に、マニエッティ・マレリの買収資金を借入金で賄ったことが大きな負担となり、グループ全体の負債が急増。買収後の売上高も当初見込みを大きく下回り、収益が低迷しました。また、日本とイタリアの企業文化や経営手法の違いもあり、組織統合や重複部門の合理化が進まず、コスト削減効果が限定的でした。さらに、主要顧客である日産自動車やステランティスの業績不振が売上減少に直結し、取引先依存度の高さが新規顧客開拓や事業多角化の遅れにもつながりました。こうした複合的な要因が重なり、2022年には民事再生法の適用を申請、現在も再建の途上にあります。

KKRファンドの性質と倒産事例

マレリの経営破綻には、出資者であるKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)ファンドの存在が大きく関わっています。KKRは1976年創業の世界最大級のプライベート・エクイティ・ファンドであり、主に成長期から成熟期の企業を対象に、経営権を取得し、経営支援や事業改革を通じて企業価値を向上させることを目指しています。特にレバレッジド・バイアウト(LBO)と呼ばれる、買収先企業の資産やキャッシュフローを担保に多額の借入を使って買収する手法が得意です。

KKR自体が倒産したことはありませんが、投資先企業の経営が悪化し、倒産に至るケースは存在します。代表的な事例としては、マレリのほか、米国のトイザらス(Toys ‘R’ Us)やEnvision Healthcareなどが挙げられます。トイザらスは2017年に米国で倒産し、店舗閉鎖・清算に至りました。Envision Healthcareも近年、米国で破産手続きを開始しています。KKRのポートフォリオ企業のうち、過去10年間で7社が破産申請を行ったとされています。

倒産によるKKR側の経済的メリット

KKRのようなプライベート・エクイティ・ファンドが投資先企業を倒産させること自体が、必ずしもファンドにとって経済的なメリットになるわけではありません。むしろ、企業価値の向上や安定したリターンの獲得が本来の目的であり、倒産は投資の失敗やリスクの顕在化と捉えられます。ただし、法的整理(破産や民事再生)を通じて、既存の債務を大幅にカットし、事業だけを残した新会社として再出発することが可能な場合もあります。この場合、ファンドが新会社に出資し直し、将来的な成長を狙うケースもあります。一方で、倒産によって投資した資本の多くが回収不能となるため、ファンドにとっては大きな損失となる場合がほとんどです。

米国Chapter 11申請と債権者・株主の優先順位

マレリは現在、米国連邦破産法第11章(Chapter 11)の適用申請を検討しています。Chapter 11は、事業継続を前提に企業再建を進めるための制度であり、債権者の権利が株主の権利に優先する「絶対優先原則(Absolute Priority Rule)」が適用されます。

具体的には、担保債権者が最優先で弁済を受け、次いで優先債権者(税務債務や労働者への未払い賃金など)、一般無担保債権者(取引先や金融機関など)が続きます。株主は最下位に位置し、すべての債権者が全額弁済されるまで一切の分配を受けられません。多くの場合、既存株主の権利は消滅します。ただし、債権者クラスが再編計画を承認した場合や、株主が新たな資金を投入する場合など、例外が認められることもあります。

なぜ日本ではなく米国Chapter 11申請が検討されるのか

マレリが日本ではなく米国Chapter 11申請を検討している理由は、主に債権者構成や再建スキームの柔軟性、グローバルな事業展開と債権者の分散、法的整理手続きの特性が関係しています。日本での私的整理案が、特に海外の金融機関など主要債権者から同意を得られず、事業停止リスクが高まっているため、より強力な法的整理手段としてChapter 11が検討されています。また、Chapter 11は日本よりも債権者クラスごとの多数決や自動停止(automatic stay)など、事業継続しながら再建を進めやすい制度設計となっています。グローバル企業にとっては国際的な債権者との交渉や資産管理がしやすい利点もあります。

Chapter 11申請は、米国法人だけでなくグループ全体の再建を包括的に進めるための選択肢となる場合があります。必ずしも米国法人だけが倒産するわけではなく、グループの一部や関連会社も含めて再建計画を策定できる場合もあります。

米国Chapter 11申請の要件

「米国に拠点がないが、欧州に法人がある日系企業」が米国Chapter 11の申請をできるかどうかは、米国内に資産や営業所(事業拠点)があるかどうかがポイントです。米国の連邦倒産法(Bankruptcy Code)第109条によれば、米国法人だけでなく、「米国内に資産や営業所を持つ外国法人」もChapter 11の申請が認められています。資産の最小額や基準はなく、米国内に預金や不動産、知的財産権、銀行口座など、何らかの資産があれば申請資格があります。

一方、欧州に法人があるだけでは、米国Chapter 11の申請資格にはなりません。米国内に資産や営業所がない場合は、原則として米国破産法の適用対象外です。したがって、「米国に拠点がないが、欧州に法人がある日系企業」は、米国に資産や営業所がない限り、米国Chapter 11の申請はできません。米国に何らかの資産や営業所があれば、たとえ本社や主要事業拠点が欧州や日本にあっても、申請資格があります。

法人株主・ファンド株主の観点と与信管理へのアドバイス

中村格付研究所の視点では、個人株主よりも法人株主のほうが有事の際の資金投入余力が高いため、企業の安定性に寄与すると考えています。 実際、大手企業や事業会社が株主となっている場合、グループ内での資金調達や経営支援が期待でき、企業の財務体質強化や事業継続に有利に働くケースが多いです。

一方、今回のマレリのようなケースでは、株主がプライベート・エクイティ・ファンド(KKR)となっています。ファンドは潤沢な資金力を背景に、危機的な状況でも追加出資や経営支援を行うことが可能です。そのため、一時的な経営危機であれば、ファンドの支援によって企業の延命や再建が期待される側面もあります。

しかし、ファンドの本質は「投資収益の最大化」であり、計画遂行が困難と判断された場合の幕引きは非常にドライに行われる傾向があります。すなわち、事業の再建や成長が見込めないと判断された場合、追加資金の投入を止め、法的整理や売却、場合によっては事業撤退を迅速に決断します。これは、ファンドが投資家から預かった資金の運用責任を負っているためであり、感情や社会的責任よりも、収益性やリスク管理を優先するためです。

今後、与信管理を行う皆さんへのアドバイスとして、
企業の株主構成や資本政策を十分に把握し、株主が法人や事業会社である場合とファンドである場合では、企業の安定性や危機対応のスピード・方向性が大きく異なる点に注意が必要です。特にファンド株主の場合、資金力は高いものの、事業継続の判断は「収益性」や「再建可能性」に大きく依存します。一方、法人株主の場合は、グループ全体の利益や社会性も考慮されるため、より長期的な安定性が期待できる場合もあります。

与信管理においては、株主の性質や資金力、経営方針をしっかりと見極め、リスク評価に反映させることが重要です。

みなさんはどう考えますでしょうか?ぜひコメント欄でお聞かせください。

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