
はじめに
本シリーズでは、企業活動と国家安全保障の接点にある経済安全保障と安全保障貿易管理の全体像と実務対応を解説してきました。
そして、私たち中村格付研究所は確信を持ってこう言います:
これからの「信用格付」とは、情報・技術・資本を守れるかどうかを評価するものである。
最終回では、信用の定義そのものがどう変わっているのか、今なぜ「守る力」が評価軸になるのかを、総まとめとしてお届けします。
企業の信用=「継続性と信頼性」の総合力
従来の格付モデルでは、信用とは「倒産しない力」=財務健全性と資金繰りに重きが置かれてきました。もちろんこれも重要ですが、2020年代以降はそれだけでは不十分です。
現在の信用は、以下の要素の「総合力」として定義されつつあります。
信用の3つの柱 | 内容 |
---|---|
① 経済的持続性 | 財務体力、利益構造、キャッシュフロー、回収能力など |
② 社会的信頼性 | 情報管理、倫理、説明責任、取引先の妥当性など |
③ 安全保障対応力 | 該非判断、スクリーニング、研究管理、国際ルール順守など |
この③が今、静かに重みを増しているのです。
取引先は「何をつくっているか」ではなく、「それが誰に使われるか」を見る
信用調査や格付を行う際、かつては「この企業は製造業だ」「この製品は住宅用部材だ」といった一次情報で済んでいました。
しかし今では、
- それが再輸出で軍事転用されていないか?
- 株主に制裁リスト対象者が紛れていないか?
- 製品の中にAI・暗号・自律性といった高リスク技術が含まれていないか?
という“第二の視点”が不可欠です。
信用格付は「国家と共に未来を築ける企業」の証
企業が持つ技術・情報・資産は、国家インフラの一部であるという考え方が定着しつつあります。ゆえに格付機関には、こうした視点での評価が求められています。
格付とは、単なる「点数付け」ではなく、「この企業は国家と共に責任を果たせる存在か」を見極める行為である。
私たちはそう考え、評価モデルそのものを見直し続けています。
これからの信用格付が評価すべき視点(再掲)
- 自社製品に対する該非判定が組織的に制度化されているか
- 取引先・株主・親会社の地政学的リスクを識別・監視しているか
- 共同研究・技術契約に経済安全保障対応の条項が含まれているか
- 特許出願時に非公開制度への配慮があるか
- 社内にスクリーニングとリスクレビューの仕組みがあるか
これらが“守れる企業”の評価軸です。
おわりに:「自由に商うために、守るべきものがある」
経済活動の自由を守るために、リスクを見抜き、対応する知恵と仕組みを持つ。
それが、これからの時代に選ばれる企業の姿です。
私たち中村格付研究所は、信用評価機関としてだけでなく、経済安全保障をともに考えるパートナーとして、これからも企業と共に歩んでいきます。