
はじめに
経済安全保障や安全保障貿易管理の制度理解は、もはや一部の法務・輸出担当者だけの問題ではなく、企業の信用と存続を左右する経営課題です。
本稿では、中村格付研究所がこれまでの調査・支援実績に基づき、企業に強く推奨する「9つの実務的対応策」を紹介します。
対応策①:該非判定の制度化と組織的承認体制の構築
- 担当者一任の判定を排除し、「全社稟議制」に
- 判定書には技術・法務・役員の複数署名を明記
- 判定根拠・適用項目・保存期間(5年)も厳格に記録
対応策②:技術情報への社内アクセス制御
- 社内ファイルサーバーやクラウドにアクセス権限を設定
- 中国・中東資本などと関係する関係者のアクセスを制限
- 出力物(USB、紙)やログの定期棚卸も実施
対応策③:取引先の信用調査・DD体制を常設
- 与信判断に**「国名+支配構造」の視点**を加える
- 必須調査項目:株主、親会社、役員、用途、再輸出先、関連会社
- DD結果は該非判断文書とリンクさせて一元管理
対応策④:共同研究・委託開発契約の見直し
- 「誰と」「どこまで共有するか」の条項明記
- 成果物の帰属、秘密保持、発表制限の条件明確化
- 非公開特許制度への該当可能性も契約前に検討
対応策⑤:非公開特許制度への備えと相談ルート確保
- 発明段階での軍事転用リスクの目利きを社内に
- 出願前に特許庁や内閣府への事前相談ルートを確保
- 技術情報を「出していいか」の判断基準を社内で整備
対応策⑥:経産省・CISTEC等との行政相談体制の明確化
- 疑義がある場合は「止めて相談」が鉄則
- 担当部門を明確にし、担当不在でも連絡できる体制に
- 行政窓口と対話できる企業こそ、信頼される
対応策⑦:スクリーニングツールの導入と運用
- WorldcheckやLexisNexisなどの制裁対象者DBとの照合
- エンドユーザー、出資者、役員まで網羅的に対象化
- 初回契約前+年1回以上の定期チェックを標準運用に
対応策⑧:リスクレビューの年次実施
- 該非判定書、信用調査報告書、契約、情報管理、研究連携などを定期総点検
- 経営・法務・技術部門による合同レビュー会議の設置を推奨
- 「仕組みを作って終わり」でなく、「動いているか」を毎年確認
対応策⑨:経営層・現場双方への教育と意識改革
- 単なるコンプライアンス研修ではなく、信用・地政学・経済構造を踏まえた実例教育
- 「なぜそれが危ないのか」を理解させる現場目線の説明
- 経営判断と現場判断を一致させる“統合的判断文化”の育成
まとめ:「守れる企業」が選ばれる
信用格付とは、単なる財務健全性ではなく、**技術・情報・資本・取引先を「守れる力」**の証です。
これからの与信管理は、「支払うか否か」だけではなく、**「情報と技術を守れるかどうか」**という、国家的視点と結びついた評価基準に変化しています。
中村格付研究所は、信用調査と経済安全保障の交差点で、貴社の持続的な成長と信頼の構築をサポートいたします。
次回は最終回【第7回】。シリーズ全体を振り返りつつ、これからの信用格付に求められる“新たな定義”を総括いたします。