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第5回:国家リスクを超えて考える「支配構造」の見抜き方

はじめに

これまで、安全保障貿易管理や経済安全保障推進法といった「制度」を中心に実務対応を整理してきましたが、ここからはより“実践的な視点”に踏み込みます。第5回のテーマは、国際取引における「見えない支配構造」をどう見抜くかです。


なぜ“国名”では不十分なのか?

従来は「この国と取引するのは危ないかどうか?」という単純な国別リスクが主流でした。しかし現在は、次のようなケースが珍しくありません:

  • 表向きはベトナム企業 → 実質は中国資本が支配
  • シンガポールの合弁会社 → 背後は中国軍系企業
  • 欧州法人との契約 → 実態は中東資本による買収済み

このように、“どの国の企業か”ではなく、“誰が最終的に支配しているか”を見る時代になっています。


【事例で学ぶ:構造を見る視点】

■ 食糧輸出を巡る「経済的威圧」

中国当局者が日本に対し「食料輸出を止めれば餓死も可能」と発言したとされる件は、単なる挑発ではなく、日本の食料供給網の中国依存を突いた現実的な警告です。ここにあるのは「貿易」ではなく「戦略資源としての支配構造」です。

■ AI・クラウド・検索の“見えない従属”

ChatGPTをはじめとした米国系AIサービスは、日本の情報処理インフラそのものを支配し始めています。生成AI、クラウド基盤、検索エンジン、SNSのいずれもが米国企業のドメインにあり、日本の行動ログや知識の源泉が海外に蓄積されているのが実態です。

■ クレジットカード決済と手数料構造

日本国内のキャッシュレス取引の多くは、VISAやMasterといった米国系企業のネットワークに依存しています。利用するたびに、手数料という形で外貨が流出しているという、静かな富の流出構造がそこにはあります。


実務に落とし込む3つの視点

  1. 国名ではなく「株主・役員・親会社」を確認せよ
     → 所在地や法人格だけではなく、UBO(実質的支配者)まで遡る。
  2. “間接的影響”にも目を向ける
     → 軍や政府との取引歴・関連会社の関係も調査対象とする。
  3. 「安い・早い・便利」はリスクの隠れ蓑と疑う
     → 異常に安価な製造拠点は政治的優遇や軍事支援が背後にある可能性も。

中村格付研究所のリスク評価アプローチ

私たちは信用調査を行う際、以下の観点を必ず確認しています:

  • 資本構成に外国政府・軍関係が含まれていないか
  • 主要な株主・親会社の制裁履歴や政府関連性
  • グループ企業の所在地・移転履歴(香港→シンガポール等)
  • 実在性を超えた“機能の実体”の有無(ゴースト法人でないか)

まとめ:「誰と取引するか」の“奥にある何か”を見る

私たちは、信用調査を「その会社が安全か?」だけではなく、「その会社を通じて、どこに情報・技術・金が流れていくか?」までを読み解く営みだと考えています。

そのためには、「見えない支配構造」を明らかにし、「地政学的信用リスク」という視点を持ち込むことが、今や与信管理に欠かせない時代となっています。


次回(第6回)は、こうした制度や視点を踏まえて、企業が具体的に取るべき9つの対応策を総まとめします。

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