
「知らなかった」では済まされない時代へ
近年、安全保障貿易管理や経済安全保障の実務において、取引先の信用調査やスクリーニング体制の整備は、避けて通れないリスク対策となっています。
- 軍需関連企業との誤取引
- 実体不明の商社を介した不透明な輸出
- 日本法人との正規取引と思いきや、背後に制裁対象国の関与があった
このような事例は決して他人事ではありません。中村格付研究所では、以下の「8つのチェック項目」を軸に、信用調査の活用を強く推奨しています。
信用調査で確認すべき8つの項目
- 法人登記情報の正確性
- 経営者・役員の属性(政治・軍事・制裁リスク)
- 株主構成(実質的支配者=UBOの把握)
- グループ会社・関連会社の状況
- 販売先・仕入先の属性(エンドユーザー含む)
- 事業実態(オフィスの所在、従業員数など)
- 金融機関との取引状況
- 最新の裁判履歴・行政処分・ライセンス取消事例
特に中国・中東・旧ソ連圏との取引では、政治・軍事との接点を見逃さない調査が不可欠です。
Worldcheck等スクリーニングツールの活用
信用調査では把握しきれないリスク、たとえば「制裁対象」「PEP(外国政府要人)」「テロ資金供与者」等の情報を網羅的にチェックするには、WorldcheckやLexisNexis WorldComplianceなどのスクリーニングツールが有効です。
主要ツール比較
ツール名 | 特徴 |
---|---|
Worldcheck | 政府制裁リスト・PEP・FATF関連データを広範囲に網羅 |
LexisNexis | 犯罪組織・腐敗関連・暴力団関連にも強い |
Dow Jones | 米国政府制裁リストを中心とした高精度マッチング |
スクリーニングのタイミングと対象
- 初回取引の前
- 契約更新時・定期レビュー(年1回以上)
- 国・業種・用途の変更時
- 大型・高額案件の発生時
対象とするのは:
- 顧客企業本人
- その株主・UBO
- 主要役員
- 海外関連会社
- エンドユーザー(最終使用者)
スクリーニングで”ヒット”したらどうする?
- 原則:即取引停止
- 経産省またはCISTECに速やかに相談
- 対応記録と調査結果を社内文書化
調査結果と該非判定を結びつける
多くの企業が陥るのが、「該非判定と信用調査が別々に扱われている」ことです。しかし、実務上はこう結びつけるべきです:
「製品は非該当。用途確認書取得済み。Worldcheckで取引先・エンドユーザーに問題なし。取引可能と判断。」
このような一体化した判断文書こそ、監査・トラブル時の“実務の盾”になります。
次回(第4回)では、経済安全保障推進法の4本柱と、企業が実務で対応すべき観点について解説します。