NRating
NRatingは、中村格付研究所が算出する格付けスコアです。
NRatingは定量情報に、定性情報を加味したハイブリッド型モデルで、対象企業の全体的な信用程度を表します。倒産予測とは別の視点による分析であり、不良債権リスクよりはレピュテーションリスクを考慮した設計になります。
3点を中央値として、中村格付研究所が重視する項目に応じて減点、加点の算出アプローチを行っており、特に以下のような情報は大きくマイナスに作用します。
- ブランドイメージを悪化させる不芳情報の発生。巨額賠償金負担のリスク。
- 企業規模、事業内容と所在地の属性不一致。住宅街に本店を置く自称大企業など。
- 個人株主による少額出資企業。外国資本による低投資企業。
- 事業活動に不可欠な資産の毀損、法令に基づく事業の制約
| 5 | Very Low Risk | 取引関係の構築に懸念がなく、積極的な事業提携が期待される先。 |
| 4 | Low Risk | 取引関係の構築は可能で、協業分野の拡大も検討できる先。 |
| 3 | Moderate Risk | 取引は可能であるが、推奨与信限度額の範囲を守るべき先。 |
| 2 | High Risk | 与信リスクを抱えた取引は推奨されず、決済状況をモニタリングすべき先。 |
| 1 | Very High Risk | 取引関係を避けるべき先。 |
| NR | No Rating | 信用程度不明。 |
NRating与信限度額
与信限度額の算出に際しては、被調査対象企業の財務数値を計算対象としています。当然ながら、クライアント側の財務状況によって、許容できる与信金額は異なるため、与信限度額を超えた取引をする場合はリスクが大きくなっているということを認識するための物差しとなります。
当該企業の財務諸表から算出される数値をもとに、販売先数を考慮しない全体的な債務履行可能範囲を全体与信限度額として計算しています。また、資本金規模に応じて取引先数を仮定し、一社当たりに認められるであろう限度額を、単体与信限度額として算出しています。
算出ロジック
全体与信限度額
a. キャッシュフローを基にした基本限度額
手元現預金の50%を与信限度額の基準とします。
b. 対象企業が持つ売掛金の回収リスク調整
売掛金の一定割合X%を与信限度額に加えますが、X%は回収リスクを考慮し割り引きます。
c. 買掛金の影響
買掛金が多い場合は、与信限度額を減少させる調整を行います。買掛金のX%を減算します。
d. 短期借入金の影響
短期借入金が多い場合は、与信限度額を減少させます。短期借入金のX%を減算します。
e. 最終的な与信限度額
以上の調整を全て加味した与信限度額を算出します。
全体与信限度額=基本限度額+売掛金調整額+買掛金調整額-短期借入金調整額
単体与信限度額
全体与信限度額に対して、以下のロジックから販売先数を仮定し、全体与信限度額を乗じています。
- 資本金1000万円以下、売上高1億円以下はX社
- 資本金1000万円以下、売上高1億円以上はX社
- 資本金1000万円以上、売上高1億円以下はX社
- 資本金1000万円以上、売上高1億円以上はX社
NRPDスコア(NRating Probability of Default)
中村格付研究所では、Altman Zスコアをベースとしつつ、倒産確率(Probability of Default, PD)を統計的に推定した「NRPDスコア」を併せて算出します。
Zスコアが示す財務健全性と、一般に公表される倒産確率モデルに整合する確率推定を統合することで、より実態に近いリスク評価を実現します。
【1】財務項目がすべて揃っている場合(完全モデル)
算出ロジック
Altman Zスコア(製造業上場企業向けモデル)またはZ′スコア(非上場・非製造業向けモデル)を算出し、その数値をロジスティック変換により倒産確率(PD)に換算します。
Zスコア計算式:
- 上場企業(製造業)
( Z = 1.2X₁ + 1.4X₂ + 3.3X₃ + 0.6X₄ + 1.0X₅ ) - 非上場企業(非製造業含む)
( Z′ = 0.717X₁ + 0.847X₂ + 3.107X₃ + 0.420X₄ + 0.998X₅ )
各変数の定義:
| 変数 | 内容 |
| X₁ | 運転資本 ÷ 総資産 |
| X₂ | 留保利益 ÷ 総資産 |
| X₃ | EBIT(営業利益)÷ 総資産 |
| X₄ | 上場企業:時価総額 ÷ 総負債非上場企業:株主資本 ÷ 総負債 |
| X₅ | 売上高 ÷ 総資産 |
倒産確率への変換(ロジスティック近似式)
[PD = \frac{1}{1 + e^{(a + bZ)}}]
内部校正値として、Zスコアが
- 2.9(安全域) → PD ≒ 1%
- 1.23(危険域) → PD ≒ 20%
- 0.5以下(極端な財務不健全) → PD ≒ 40〜70%
に対応するよう設計されています。
これにより、Zスコアを確率(0〜100%)として直感的に理解できる指標に変換しています。
【2】財務項目が一部欠損している場合(補完モデル)
一部の項目(特にEBITまたは売上高)が開示されていない場合は、以下の手順で代替推計モデルを用います。
(1)補完指標によるスコア推計
- EBITが不明な場合:営業利益率を業種中央値または類似企業レンジ(–5%〜+10%)で仮定
- 売上高が不明な場合:総資産回転率(X₅)を同業平均または貸借対照表規模から推定
- 留保利益が不明な場合:資本項目の内訳(その他資本剰余金・利益剰余金)から推計
(2)シナリオ別Z′算出
これらの仮定を用い、EBIT率や売上規模の異なる複数シナリオでZ′スコアを算出。
それぞれのZ′をロジスティック式に入力し、倒産確率レンジ(例:PD 30〜55%)を導出します。
(3)信頼度の明示
推計値を用いた場合は、算出結果に「暫定(Scenario-based)」と明記し、
信頼度(Confidence Level)を付与します(高・中・低の3段階)。
【3】NRPDスコアの解釈
| NRPD(倒産確率) | リスク区分 | Zスコア対応ゾーン |
| 0〜2% | 安全域(Low Risk) | Z > 2.9 |
| 2〜10% | 中リスク(Moderate Risk) | 1.23〜2.9 |
| 10〜30% | 高リスク(High Risk) | Z < 1.23 |
| 30%以上 | 破綻懸念(Distress) | Z < 1.0 |
NRPDスコアは、Zスコアの理論値をベースに倒産確率へ変換したものであり、
「財務定量リスクの見える化」を目的としています。
なお、グループ支援や保証等の定性的要素は別途「NR評価(信用格付)」にて補完されます。
【4】出力例(NRPDスコア併記)
Z′スコア: 0.58(Distress Zone)
NRPDスコア: 46%(1年以内の倒産確率、単体ベース)
本スコアは財務数値に基づく統計的リスク指標であり、グループ保証や支援等は反映していません。
NRating事業価値評価
割引キャッシュフロー法を用いることで、企業が将来的に生み出すキャッシュフローの価値を現在の価値に換算し、その企業の全体的な価値を評価します。これにより、企業の真の価値を理解し、適切な意思決定を行うことができます。
算出ロジック
1. 未来のキャッシュフローを予測する
企業が将来的に生み出すと期待されるキャッシュフロー(現金の流れ)を予測します。これには、過去の財務データを基に、次の数年間のキャッシュフローを見積もることが含まれます。
2. 割引率(WACC)を決定する
割引率とは、未来のキャッシュフローを現在価値に換算するための率です。この割引率には、企業が資金を調達する際の平均コスト(加重平均資本コスト、WACC)が使われます。
3. 未来のキャッシュフローを現在価値に割引く
予測した各年のキャッシュフローを割引率を使って現在価値に換算します。これにより、将来のキャッシュフローの価値を今日の価値に変換します。
4. 終価(Terminal Value)を計算する
企業が無期限に生み出し続けると期待されるキャッシュフローの価値を計算します。これには、予測期間の最後の年のキャッシュフローに成長率を掛けて計算します。
5. 現在価値の合計を計算する
各年の割引後のキャッシュフローと終価を合計して、企業の全体価値(企業価値)を計算します。
6. 株式価値を計算する
企業価値から企業の負債を引いて、株式価値を求めます。これは、企業が負っている借金を差し引いた後に残る企業の純粋な価値です。
