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第3章:信用調査とコンプライアンスツールの使いどころ… 14
Worldcheck等のコンプライアンスツールの役割… 15
調査報告書とスクリーニング結果を「該非判断」とリンクさせる… 17
法律の特徴:企業への「義務」と「支援」がセットで来る… 21
「どこの国か」ではなく「誰が支配しているか」を問う視点へ… 26
はじめに
近年、企業活動と国家の安全保障が切り離せない時代を迎えています。特に、最先端技術を扱う製造業やグローバル取引を行う企業にとって、「安全保障貿易管理」および「経済安全保障」は、自社の事業継続や信頼性に直結する重要テーマです。
中村格付研究所は、企業の信用評価とリスクマネジメントの専門機関として、こうしたテーマについてもコンサルティングを行っております。本稿では、これまでの知見を踏まえながら、両者の違いと実務的な対応について解説します。
第1章:安全保障貿易管理の全体構造
「守る」ことが、企業価値を高める時代
安全保障貿易管理とは、一言で言えば、企業が保有する製品・技術が、意図せずして兵器やテロリズムに転用されることを防ぐための制度的枠組みです。かつては一部の大手輸出企業だけが意識すればよいと考えられていた分野ですが、現在では中堅・中小企業であっても、特定技術や部品を保有する限り、国家の安全保障に直接関わる立場に置かれます。
この安全保障貿易管理は、国際的な輸出管理レジーム(WA、NSG、MTCR、AG等)を土台とし、日本国内では「外国為替及び外国貿易法(外為法)」に基づき運用されています。担当官庁は経済産業省であり、違反した場合の罰則は厳しく、法人罰・個人罰の双方が課される可能性があります。
リスト規制とキャッチオール規制 ― 2つの柱
安全保障貿易管理には、大きく2つの柱があります。
1. リスト規制
これは、輸出令別表第1に記載された貨物・技術に該当するものを輸出・提供する際には、経済産業大臣の許可が必要となるという制度です。
対象には核関連装置、ミサイル部品、軍事用ソフトウェア、精密工作機械などが含まれます。性能の数値や仕様によって該当・非該当が分かれるため、技術仕様の把握と文書化が不可欠です。
2. キャッチオール規制
こちらは、リストに該当しない製品・技術であっても、用途や提供先の属性によっては規制対象になる制度です。
具体的には、以下の2つのケースが該当します。
- 用途キャッチオール:提供先が核・生物・化学兵器などの開発に関与していると「知った」場合
- ユーザーキャッチオール:リスト外の貨物でも、懸念国の軍事機関や経産省の指定ユーザーに輸出する場合
キャッチオール規制は、明文化されたスペック要件の外側にあるリスクに対応する柔軟な制度であり、現代の安全保障貿易管理の核心と言えます。
「該非判定」とは何か
安全保障貿易管理における最初のステップは、自社製品・技術が「輸出令別表第1に該当するか否か」を判定する作業(該非判定)です。この判定には、以下の3ステップが必要です:
- 製品・技術のスペック確認
→ カタログ、製造仕様書、図面、材料表などを確認 - 輸出令別表第1との照合
→ 性能要件や機能が規定値を超えていないか確認(例:精度0.001mm以下の工作機械など) - 判定結果の記録化(該非判定書の作成)
→ 判定の根拠、日付、担当者、確認者、承認者を記録し、5年間保存
この一連の流れを経ずに「何となく大丈夫」と判断して輸出すれば、違反の可能性が極めて高くなります。
ヒアリングと用途確認の実務
キャッチオール規制を正しく運用するためには、取引先との事前ヒアリングと用途確認が極めて重要です。
私たちは企業に対して、以下のプロセスを推奨しています:
- ヒアリングシートを作成し、顧客に提出させる
→ 使用目的、最終使用者、再輸出の有無などを明記 - 用途確認書を契約書に添付・記載し、法的拘束力を持たせる
→ 「当該製品は○○用途にのみ使用する」旨を明記 - 顧客・用途に疑義がある場合は、取引停止または経産省に相談
→ “知らなかった”では通用しない時代です
この用途確認プロセスを記録として残すことにより、後日の説明責任に耐える体制が整います。
信用評価機関としての視点から
中村格付研究所では、これまで多くの中堅・中小企業が、「自社には関係ない」と思っていた分野で突然リスクが顕在化する現場を見てきました。
センサー、セラミック、工作機械、AIアルゴリズム、ソフトウェアモジュールなど、製品自体は一見無害でも、組み合わせや応用によっては軍事的意味を持つケースが多数あります。
第2章:該非判定実務と記録体制
「これは輸出しても大丈夫か?」に明確な根拠を
安全保障貿易管理における該非判定は、企業が「輸出しようとする製品や技術が、リスト規制に該当するか否か」を自ら判定するプロセスです。
この判定は、経産省や外部に丸投げするものではなく、あくまで輸出者本人が責任を持って行うべき法的義務です。
該非判定の基本プロセス(3ステップ)
① 製品・技術の仕様確認
- 製品のカタログ・技術資料・設計図面
- 使用部品の一覧(BOM)
- ソフトウェア構成(暗号技術の有無など)
この段階で、製品を細分化し、どの構成要素がどの項目に該当し得るかを検討します。
特に多いのが「最終製品は該当しないが、部品や素材が該当する」ケースです。
② 輸出令別表第1との照合
輸出令別表第1は、1項から15項に分かれ、それぞれに具体的な性能・仕様が記載されています。
たとえば:
- 2項:化学兵器関連(毒ガス製造装置や原料)
- 3項:生物兵器関連(ウイルス増殖装置)
- 8項:センサー・レーザー(波長、出力などで該当)
- 15項:ソフトウェア・暗号技術(セキュリティ製品に注意)
条文の文章は専門的でわかりにくいため、CISTECの対訳集や経産省の技術解説資料を使って丁寧に読み込むことが推奨されます。
③ 判定結果の文書化(該非判定書の作成)
このプロセスの中核が、「該非判定書」です。
この書類は、自社が適正に判定したことを記録するものであり、トラブル発生時に企業を守る盾になります。
該非判定書の記載内容と押さえるべき項目
項目 | 内容 |
判定日 | 判定を行った日付 |
商品名・型番 | 輸出予定の製品名称や型式 |
判定結果 | 該当(項番号を記載)/非該当 |
判定理由 | 技術仕様と法文の照合結果の説明 |
担当者・確認者 | 判定を行った技術担当者の署名・捺印 |
承認者 | コンプライアンス責任者や役員の承認印 |
全員署名・押印の体制がなぜ必要か?
中村格付研究所では、該非判定書に「担当者1名のみの署名」で済ませる体制を非常に危険視しています。
なぜなら:
- 技術的な該否判断は専門性が高く、誤判定のリスクが常にある
- 担当者個人が買収やハニートラップなど不正のターゲットになることもある
- 「誰が責任を取るのか」があいまいだと、ガバナンスとして破綻する
したがって、私たちは以下のような組織的なチェック体制の導入を推奨しています:
- 技術部門が判定ドラフトを作成
- コンプライアンス部門が確認し、承認を回覧
- 経営陣(少なくとも取締役クラス)も最終署名
- 上記一連の判定書を「紙または電子」で5年間保管
このような「組織の意思としての輸出判断」を記録しておくことが、将来の責任追及リスクを回避します。
保存期間の意味と裁判対応
外為法は、該非判定書など輸出管理に関わる記録を最低5年間保存する義務を課しています。
この保存義務の背景には以下のような事情があります:
- 過去に輸出された製品が、数年後に軍事用途で使われたことが発覚する事例が存在
- 「その時どう判断していたか」が問われる
- 適切な記録があれば、企業が違法意図を持っていなかった証明になる
該非判定書の保管は、単なるコンプライアンス義務ではなく、企業の信用と将来を守る盾なのです。
第3章:信用調査とコンプライアンスツールの使いどころ
「知らなかった」では済まされない時代へ
安全保障貿易管理の中でも、キャッチオール規制や経済安全保障の実務に直結するのが、取引先の信用調査とスクリーニング体制です。
近年、以下のような事例が多発しています:
- 「聞いたことのない企業」からの高額注文 → 実は軍関連企業
- 中東・東南アジア・旧ソ連圏などへの輸出 → 実態不明な商社経由
- 日本法人との取引のはずが、背後に制裁対象国の資本関与があった
このような状況下で、取引前のデューデリジェンス(DD)を怠ることは、リスク管理の放棄に等しいと私たちは考えます。
信用調査で確認すべき8つの項目
信用調査会社を活用する際、確認すべき基本項目は以下の8つです:
- 法人名・現地登記情報(法人番号、所在地など)
- 経営者・役員構成(元軍人や政府関係者が含まれていないか)
- 株主・出資者構成(外資比率、制裁対象企業の影)
- 仕入先・販売先(軍需産業との取引歴)
- グループ会社・子会社・関連企業の有無と属性
- 本社所在地と現実の事業活動の一致(仮想オフィスや軍事施設内など)
- 従業員数と業種分類の妥当性(見せかけの製造業か?)
- 最近の契約実績と金融機関との取引状況
特に中東・中国・ロシア・東南アジアの特定企業との取引では、上記を徹底的に精査する必要があります。
Worldcheck等のコンプライアンスツールの役割
信用調査だけでは判明しない「制裁対象者」「軍関連情報」については、世界規模の制裁・リスクデータベースとの照合が必要です。そこで使われるのが以下のようなツールです:
主要なスクリーニングツール一覧
ツール名 | 主な提供元 | 特徴 |
Worldcheck | Refinitiv(旧トムソンロイター) | 政府制裁情報・テロ支援団体データベース等に強い |
LexisNexis WorldCompliance | RELX Group | 犯罪組織・PEP(公的要人)データに強い |
Dow Jones Watchlist | Dow Jones | 欧米の政府制裁情報を網羅、金融機関が多数導入 |
これらは一件あたり数秒でリスク照合でき、リスト規制には該当しないが、制裁対象や軍関係に該当するケースを効率的に検出できます。
いつ・どのように使うのか?
中村格付研究所では、以下のプロセスを推奨しています:
スクリーニングを行うべきタイミング
- 初回の取引時(契約前)
- 年1回以上の定期再評価
- 取引国・業種に変化があった場合
- 急な大型注文・高単価案件が入った場合
スクリーニング対象の範囲
- 顧客企業本人(法人)
- 実質的支配者(株主、オーナー)
- 役員・幹部
- 関連会社(とくに国外)
- エンドユーザー(最終使用者)
結果が「ヒットした」場合の対応
- 即取引停止が原則
- 必要に応じて経産省またはCISTECに相談
- 記録を社内に残す(ヒアリング記録・対応履歴)
調査報告書とスクリーニング結果を「該非判断」とリンクさせる
該非判定書は「技術スペック」のみを記録する文書ではなく、実務的には以下のように活用されるべきです:
- 「この製品は非該当であるが、用途とユーザーによりキャッチオール対象となるため、経産省に申請済み」
- 「DDにより軍関連リスクはないと判断。用途確認書取得済み。Worldcheckでも制裁対象に該当せず」
つまり、該非判断と信用調査・スクリーニングは不可分の関係にあるのです。これは中村格付研究所が最も強調している現場運用の原則です。
専門家でなければ見抜けないリスクを補完する体制を
社内担当者一人で全世界の政治・軍事・経済リスクを理解することは不可能です。
だからこそ、企業は信用調査会社と連携し、スクリーニングツールを活用する体制を整える必要があります。
これはコストではなく、リスク低減のための「信用の投資」です。
第4章:経済安全保障と推進法の実務理解
「技術」「サプライチェーン」「設備」が国家を守る
経済安全保障とは、国家の存立や国民生活を脅かす経済的リスクを未然に防ぎ、持続可能な成長を守る安全保障政策です。
これは従来の「軍事安全保障」とは異なり、戦争・テロといった突発的な暴力から国を守るのではなく、日常の経済活動の中に潜む依存・支配・流出のリスクに対応するものです。
その中核を担う制度が、2022年5月に公布された経済安全保障推進法(経安法)です。
経済安全保障推進法の4本柱
この法律は、民間企業が関わる以下4分野を対象に、国家と企業が協力してリスク管理を行うことを求めています。
① サプライチェーンの強靭化(第1章)
- 半導体・医薬品・電池素材など、国家存立に不可欠な物資を国内で安定供給する仕組みを整える。
- 経産省の指定を受けた事業者には、補助金支給と報告義務がセットで適用される。
中小製造業も、特定部材のサプライヤーであれば対象になる可能性あり。
② 基幹インフラの信頼性確保(第2章)
- 通信、電力、金融、交通、上下水道、航空、物流など14分野を「基幹インフラ」と定義。
- それらの設備・システム導入前に、外国製機器の混入や情報漏洩の可能性を政府が審査する。
大手SIerやインフラ系企業のみならず、設備を納入する部品メーカーやシステム開発企業も影響を受ける。
③ 重要技術の育成と官民協力(第3章)
- AI、量子、宇宙、バイオ、サイバーなどの国家戦略技術を、民間企業・大学・研究機関と共同で保護・育成。
- 指定研究には資金支援・セキュリティ基準の義務化・成果管理の義務がセットで付く。
ベンチャー企業・大学の研究室も対象になる可能性あり。外部発表や共同研究の透明性が重視される。
④ 特許の非公開制度(第4章)
- 軍事転用が懸念される特許出願(たとえば自律兵器や量子暗号技術など)について、特許庁が一定期間非公開とすることを可能化。
- 出願者には、非公開中の情報管理義務が生じ、違反した場合は罰則対象となる。
発明者本人が意図せず、国防技術に該当する技術を開発してしまうケースも想定される。
法律の特徴:企業への「義務」と「支援」がセットで来る
経済安全保障推進法の最大の特徴は、規制と補助が一体となっている点です。
これは「企業に国防の責任を押し付ける」のではなく、「国家と企業が共に守る」という新しいモデルです。
- サプライチェーン強靭化では補助金交付
- 重要技術育成では研究費支援と成果保全
- インフラ審査では情報提供義務と安全評価支援
企業にとっては、単なる制限ではなく、国家からの支援と連携のチャンスと捉えることが重要です。
実務対応で押さえるべき5つの観点
中村格付研究所では、経済安全保障推進法に関して、以下5点の整理と対応を推奨しています:
- 自社製品・技術が「重要技術・物資・インフラ」に該当するかを棚卸
→ 自社が法律の対象となるかどうかを知ることが第一歩。 - 該当しそうな製品・研究には、公開情報・アクセス制御のガイドラインを設ける
→ 研究段階の情報流出が最も危険。 - 特許出願前に、非公開特許に該当するかの相談ルートを確保
→ 特許庁との事前相談が可能。発明者任せにしない。 - 外部との共同研究契約には、安全保障条項を盛り込む
→ 発表の可否、成果の帰属、秘密保持などを明確に。 - 取引先の資本構成と政府関与リスクを定期チェック
→ 特に中国、ロシア、中東、旧ソ連圏との取引では要注意。
経済安保と安全保障貿易管理の“重なり”に備える
ここまで見てきたように、経済安全保障は「技術」「情報」「資本」「物流」といった企業活動の広範な領域を対象にした、構造的な安全保障です。
これは、安全保障貿易管理のような「個別製品ごとの輸出規制(点)」とは異なり、企業の構造や行動全体(面)を対象にしている点が特徴です。
だからこそ、両者の制度は別物として扱うのではなく、企業内で「輸出管理+経済安保管理」という統合的体制を築くことが求められています。
第5章(完全版):取引国・地域別の実務注意点
〜「誰と取引するか」の向こうにある、見えない支配構造〜
国名ではなく、構造を見るべき時代へ
企業が製品や技術を輸出・共有する相手を判断する際、かつては「相手国がホワイト国かどうか」という単純な軸で判断する風潮がありました。しかし現在では、それだけでは不十分です。
重要なのは、その取引相手の背後にどのような国家戦略や政治的リスクが潜んでいるかを見抜くこと。
つまり、私たちは今、国ではなく“構造”を見て判断しなければならない時代に生きているのです。
【事例①】中国による食糧輸出統制と「静かな威圧」
2023年、中国政府関係者が「日本への食料輸出を止めれば、短期間で国民を餓死させられる」という発言をしたと報道されました。これは誇張ではなく、日本の食料輸入の相当部分が中国や東南アジアに依存しているという現実を突いた発言です。
この事例が示すのは、武力ではなく経済的依存を通じた支配=経済的威圧(economic coercion)です。
日本企業が中国との農業貿易や原材料輸入を「単価」や「納期」でしか判断していないとすれば、それはもはや無防備に等しい。
【事例②】AI領域の米国独占と日本の「データ従属」
生成AI(ChatGPT、Perplexity、Anthropic、Gammaなど)の登場以降、AI基盤の主導権は完全に米国に移りました。
- 日本の企業はAIの中核技術を持たず、アカウントを作成して“使わせてもらっている”立場
- 日本の企業や自治体が利用したデータ・プロンプト・生成物は、全て米国側のインフラ内で処理され、蓄積される
つまり、日本はAI分野において国家的にも企業的にも「従属者」になっているのが現実です。
これは一種の「技術的植民地化」であり、技術を“使う側”に甘んじている限り、データ主権も産業支配権も得られない。
【事例③】米国系カード決済会社への“通貨手数料支配”
現在、日本国内のクレジットカード市場はVISA・Masterなどの米国系決済会社がほぼ独占しています。消費者が買い物をするたびに、店舗側が支払う手数料の一部が、国外へと流れている構造です。
- JCBやUCカードの国内シェアは限定的
- キャッシュレス化が進めば進むほど、日本の決済インフラは外資に握られていく
この構造は、「技術インフラの国境喪失」という点で、AIと同じ構造です。
日常の支払い行動すら、外資のビジネスモデルに組み込まれていることに、多くの人が気づいていません。
「どこの国か」ではなく「誰が支配しているか」を問う視点へ
上記のような事例を通じて私たちが学ぶべきは、相手国の表面情報だけでなく、その背後にある経済的・技術的支配構造を見極めることの重要性です。
例えば…
表面的事実 | 真のリスク構造 |
ベトナム企業との取引 | 実質中国企業のフロントである可能性 |
米国企業の買収提案 | 買収後に研究開発が切り捨てられ、日本技術が空洞化するリスク |
中国の農業会社との契約 | 技術移転を条件に農業インフラが乗っ取られる可能性 |
中村格付研究所のリスク評価の姿勢
私たちは、取引先の審査にあたって次の3つの視点を常に重視しています:
- 国名よりも実質的支配関係(資本・人脈・親会社)を見る
- 経済インフラへの影響度(食料・決済・エネルギー・AI)を見極める
- 軍・政府・制裁対象との接点を「直接・間接」の両面から調査する
このような視点を持ってこそ、単なる「取引先調査」ではなく、国家的視点を持った企業統治の礎となるのです。
第6章:中村格付研究所が提案する9つの対応策
〜信用と安全保障が交差する時代に、企業が取るべき実行計画〜
なぜ「守る仕組み」を持つ企業が選ばれるのか
信用評価とは単なる財務分析ではありません。
現代では、「その企業がどこに情報を流しているか」、「どこから技術や資本を得ているか」までを含めた、企業の統治と安全保障の成熟度こそが信用であると、私たちは考えます。
中村格付研究所では、経済安全保障・安全保障貿易管理の両視点から、企業が取り組むべき9つの具体的な対応策を提言しています。
対応策①:該非判定書の制度化と全社的関与
- 技術部門だけに任せるのではなく、法務・コンプライアンス・経営層が確認・承認
- 判定の根拠を文章で明記し、5年間の保存
- 担当者1名の恣意的判断を排除するため、複数署名+社内稟議制を構築
対応策②:技術情報への社内アクセス権管理
- 社内LAN・ファイルサーバー・クラウド上の技術資料に対し、アクセス制御と閲覧ログ記録を義務化
- 中国資本の関連会社や、共同研究先の外国人研究者に対する閲覧制限・物理的隔離
- 出力物(USB、紙)の持ち出し管理・定期棚卸も含めた運用体制を構築
対応策③:信用調査とDD体制の整備
- 新規取引の前に、必ず信用調査会社によるレポート取得
- 役員・株主・資本構成・販売先・所在地・関連企業・用途の徹底確認
- 特定国(中国・中東・旧ソ連圏)との取引には、政治・軍事的背景の調査を必須化
対応策④:共同研究・委託開発の契約見直し
- 成果物の帰属、発表制限、秘密保持、外国人研究者の関与範囲を明記
- 内閣府に事前相談し、経済安全保障推進法に沿ったガイドラインを遵守
- 共同研究内容が「非公開特許」に該当する可能性も考慮
対応策⑤:非公開特許制度への備え
- 特許出願時に、軍事転用可能性・国家戦略技術該当性の自己判定
- 該当の可能性があれば、特許庁に事前相談し、出願の公表リスクを管理
- 技術的開示を行う前に、事業インパクトと情報保護のバランスを検討
対応策⑥:政府機関との相談ルートを確保
- 経産省、CISTEC、内閣府などの窓口に相談できる体制・人脈を社内に明確化
- 「疑義がある場合は相談しよう」が判断遅延や違反リスクを防ぐ最善策
- 行政と対話できる企業こそが、リスクを価値に変えられる企業
対応策⑦:コンプライアンススクリーニングの導入
- WorldcheckやLexisNexisなどの国際制裁データベースとの照合を日常化
- エンドユーザー・役員・株主・資本関係者すべてを対象に
- 初回+定期レビュー(年1回以上)のモニタリング体制を構築
対応策⑧:リスクレビュー制度の構築
- 年次で、該非判定書・信用調査・契約書・研究提携・情報管理体制を総点検
- 形式的でない「実効性レビュー」を重視
- 技術部門・法務部門・経営層・外部アドバイザーが関与する形で実施
対応策⑨:経営層と現場への教育・意識改革
- 単なるコンプライアンス研修ではなく、経済安全保障と企業戦略のつながりを伝える
- 実例(AI依存、食料制裁、カード決済の富の流出など)を交えたリアルなケース教育
- 経営判断と現場判断が整合する、「判断できる企業文化」を育てる
信用格付と経済安全保障の交差点で
私たち中村格付研究所は、「企業の信用とは何か」という問いに、こう答えます:
“自社の情報・技術・資本が、どこに向かい、どこから来ているかを正しく把握し、制御できている状態”。
これこそが、現代の信用格付の本質であり、
経済安全保障という文脈で企業が社会に選ばれ続けるために必要な「信用」の定義だと考えています。
【おわりに】
~「自由に商うために、守るべきものがある」~
経済活動とは、そもそも「自由」であるべきものです。
誰と取引するか、何をつくるか、どこで売るか。
それらを選ぶ権利は、本来すべて企業とその働く人々にあります。
しかし今、私たちはその「自由」が試される時代にいます。
AIが、食料が、エネルギーが、決済インフラが、
「いつの間にか他国に握られている」という事態に気づかないまま、
事業を続けてしまっていないか。
その企業が何をつくっているかだけではなく、
「それが、誰に、何に使われるのか」まで問われる時代が来ています。
中村格付研究所は、これまで与信管理や信用調査を通じて、「企業の信用とは何か」を考え続けてきました。
そして今、私たちは強く感じています。
これからの信用とは、技術と情報を正しく守れる力だと。
- 技術流出を防ぐために、該非判定を制度化する
- 共同研究の中に、国家のリスクが潜んでいないかを点検する
- 目の前の「取引先」の背後にある国際的な構造を見抜く
- 信用調査とスクリーニングで、知らぬ間に「制裁違反」に巻き込まれることを防ぐ
- 「誰がアクセスできるのか」に、経営者自身が責任を持つ体制を作る
こうした1つ1つの取り組みが、
企業の信用を守り、ひいては日本という経済国家の安全を守ることに直結しているのです。
経済安全保障とは、「企業を疑う制度」ではなく、「企業を守る制度」です。
そしてその本質は、「国に従え」ではなく、「国と共に未来を築こう」という対話の始まりだと私たちは考えます。
これからも中村格付研究所は、
法制度の解釈にとどまらず、企業現場の実務に即した支援を、1社1社に対して誠実に続けていきます。
「安全保障貿易管理」「経済安全保障」
この2つの言葉に戸惑うすべての企業と共に、
私たちは、自由な経済活動を守るための知恵としくみを育てていきます。
ご相談・お問い合わせは、ぜひお気軽に。
私たちは、企業のリスクの隣に立ち、共に考えるパートナーでありたいと願っています。
株式会社中村格付研究所
代表取締役社長 中村 裕幸